NRCにはいくつか人目につきにくい場所が存在する。ハーツラビュル寮の迷路の、右に二回、左に二回、最後にもう一度右に曲がった所だとか、スカラビア寮の砂漠にある洞窟の中だとか、学園裏の森だとか。ジャミルがいる体育館裏もその内の一つだ。こういった場所は得てして誰かしらがいるものだけれど、その日は運良くジャミル一人だけだった。喜びに指を鳴らし、口端を持ち上げたジャミルはポケットから煙草とライターを取り出した。
ジャミルが煙草を覚えたのは一年生が終わろうとしている頃のことだった。ストレスを上手く発散することができず、ほとんど不眠症になりかけていたところを、当時三年生だった先輩が見かねて一本分けてくれたのだった。最初は未成年だし、と断ったのだが、無理矢理吸わされて、そうして駄目な人間になってしまった。苦い煙が肺を汚していく感覚が、命を無為に消費している感覚が、ジャミルにとっては何よりも甘美な救いだった。
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