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    flowerriddellk2

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    flowerriddellk2

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    渡米後、五年目の譲介とテツの話の完結編です。譲テツのハピエンです。鈴子さんの話題が出ますので閲覧注意。過去捏造。

    失われた時を求めて(後編) 部屋が急に暗くなった気がした。窓に目をやると、黒い雲が空を覆っている。夕立がくるらしい。日本の夏らしい。
     真田の顔も陰になってよく見えなかった。譲介は「あなたも?」と聞いた。
    「あなたも親に捨てられたんですか?」
     彼は前髪を揺らして「いいや?」と首を傾げる。
    「さっき、クソ親って言いましたよね。自分の親のことも言っているように聞こえたから」
     「そういうことか」と腕を組んで壁にもたれる。タンクトップから突き出た二の腕は太く、さっき、子どもをやすやすと持ち上げたことを思い出す。気力も体力も衰えているようには見えない。なぜ、この人が引退しようとしているのか。譲介にはわからなかった。
    「俺の親も、世間一般の価値観から見れば、クソの部類だろうな。親父は犯罪者で獄中死。母親は精神的に不安定になり、自立生活ができなくなった」
    「お兄さんは? さっき、兄がいると……」
    「あいつはテロリストになって、海の上で爆死した。ひどい兄だぜ」
     クエイドの寮生にいそうなタイプだな、と思った。エピソードだけ聞けば、譲介より酷い親だ。でも、彼が穏やかな顔で言うので「恨んでないんですか」と聞いた。
    「親だからな。子どもにとっては、どんなクソ親は親でしかないし、兄は兄でしかない。残酷なもんだと思うぞ、俺は」
     クククと彼は笑ったが、譲介は「そうですか」と静かに言った。不思議と「なんだそうだったのか」という気持ちが湧いてくる。
    「あなたは、高校生の僕に自分を投影してたんですか。そういうの、メディカルスクールの講義で聞いたことあります。過去の自分を年少者に重ねて、満たされなかった子ども時代を取り返そうとする。自分ができなかったことをしてやり、欲しかったものを与えてやる」
    「アメリカで変なことばっかり覚えてきやがって。ま、俺がお前に自己投影しなかった、と言えば嘘になるな」
     部屋が暗くて真田の表情はよく見えない。でも、少し声のトーンが落ちたのはわかる。
    「もう少し言えば、兄を投影していたのもあったはずだ。兄は動物兵器の開発者だった。動物好きのくせによ。おめぇもあの頃、動物を殺してたけど、ほんとは生命に興味があっただろ?」
     ぎくりとして「それ、どこかの資料に書いてありましたか?」と聞き返す。
    「ねぇよ。俺の直感だ。たまに医学部に来るやつでいるんだよ、異様に生命に興味がある奴が。そういう奴は解剖実習でわかる。取り憑かれたようにご遺体に執着するからな。その手のやつのなかに、子ども時代に動物を殺して埋めてた奴はいた」
    「お兄さんも……?」
    「今となってはわからねぇ。小さい頃は家で魚や鳥、犬やら猫やらを飼っていた記憶があるが、ある時から消えた。親は知ってた可能性はあるな。生命に執着する奴は、動物を愛しもするし、殺しもする。生命に対する支配欲が強いからだ。俺はおめぇをあれ以上、殺す方に行かせたくなかった」
    「だから僕を医者にしようと? お兄さんは医者にはならなかったんですか?」
    「医者をやめた。医学で人の生命を支配するんじゃなく、武力で支配することを選んだ。その末路が爆死だ。あわれな男だな」
     その瞬間、ピカッと雷光が差した。真田の顔が照らし出される。暗く、うつろな目をしていた。とっさに譲介は彼に駆け寄って、二の腕を掴んだ。
    「なんでぇ? おめぇ、雷が怖いのか?」
     呆れたように言われる。「違います」と答えようとしてやめた。
    「少し。こうしていてもらっても、いいですか?」
     「仕方ねえな」と片腕で抱き寄せられた。ごつごつした体躯に上半身を軽く預ける。耳を胸に寄せると、どくどくと力強く鼓動が響いた。鋼のように硬い、この筋肉の下にある、柔らかな心を思う。「やっと、この人に触れた」そんな気がした。
     そんな譲介の胸中は知らず、真田が不意に言う。
    「おめぇ、でかくなったな」
    「なってませんよ。背は高校時代とほとんど同じです」
    「じゃあ、俺が小さくなったのか」
    「十分、今もデカいですよ」
     譲介の体は小刻みに震えている。それをなだめるように「早く雷がいっちまうといいな」と耳元で言われた。ぐっと胸の奥から込み上げてくるものがあるが、こらえる。なにごともない顔をした。もし、ここで余計なことを言ってしまえば、二度とこの人のこの部分には触れられない気がする。
     ざあっと大きな音を立てて雨が降り始めた。外は真っ暗だ。真田はリモコンで部屋の明かりをつける。こうこうとLEDの光で照らし出されると、抱きついているのが気まずくて、彼から体を離した。
    「僕を母親に会わせなかったのも自己投影ですか?」
     そう聞かれて、珍しく彼は目を逸らして「コーヒーでもいれるか」とわざとらしくかわそうとした。「教えてください」と迫る。
    「あなたは、和久井鈴子は子どもを捨てたわけではないと、一方的に僕に言った。しかも手術台に縛り付けられた状態で。あんなのフェアじゃない。僕はうっかり信じ込んだけど、それって……」
    「それは嘘じゃない。あの女は、お前を捨てようと思ったわけじゃねぇよ」
    「じゃあなんで、僕を置き去りに? あとで取り戻しにきたって、遅すぎるっ! それに、なんでもっと真剣に僕のことを探さなかったのか……」
     真田は「正気じゃないからだろ」とさらりと言った。
    「旦那が借金まみれで、鈴子を殴ってたことはおめぇも知ってるだろ? 警察の記録もあった。肝臓の挫滅も暴力でやられたもんだ。いつ殺されてもおかしくない状況にいた」
    「だったら、逃げればよかったんですよ! 僕を連れて!!」
    「今から二十年以上前の話だ。日本のDV防止法が施行されたのは、二○○二年。おめぇは一九九五年生まれだろ? その頃はDV被害者を助ける法律はなかった。今以上に、被害の重要性も知られてねぇ。考えてみろよ、医者だって旦那に肝臓を潰されてる女房をみすみす家に帰してるんだぞ。帰すか? 帰してたんだよ、当時は。民事不介入ってのがあってな、家庭内の暴力は警察も立ち入れねぇ。今だって十分じゃねぇけど、当時はなんの手段もなかった」
     苛立たしげに彼は壁を軽く拳で叩いた。本気ではないだろうが、気持ちのやり場がないという顔をしている。
    「なぜ、あなたが……」
    「俺もそうしてきたからだ。児童虐待だろうが、DVだろうが、今まで、散々見過ごしてきただろう。正気の沙汰じゃないぜ。医者も、警察官も、おめぇの母親も。誰もおめぇを救わなかった。助けるための法律もなかった。それが二十年前だ」
     「でも、法律がなくたって、患者さんの具合が悪ければ助けるのが医者じゃないんですか?」と青臭いことを口走る。馬鹿みたいだと思いながら、そうとしか言えなかった。
    「おめぇ、DV被害者の診察をしたことはあるか?」
    「いえ、K先生の診療所には来てないと思います。来ていても、僕は外されていたかもしれない」
     もし、神代が自分を診察室の外に出して、DV被害者のケアをしていたならば、納得がいくと思う。当時の自分には受け止めきれなかった。
    「暴力を受けたあとの被害者ってのは正気じゃねぇ。それは想像がつくだろ? ショックを受けてるし、冷静に自分の身に起きたことを話せない。朦朧として言葉がはっきりしなかったり、何度も同じ話がループすることもザラだ。家族の秘密だからと医者にも暴力を隠そうとすることもある。そのうえ、旦那がきたら急にピンシャンして、仲良さそうに二人でニコニコ話したりしてな。もう医者の側もわけがわからねぇわけだ」
    「それは……被害者が、家に帰った後で旦那さんから報復されることを恐れて……」
    「暴力が起きてると確信できりゃあ、そういう可能性も考えられる。だけど、本人が混乱してDVだという言質が取れないなか、旦那がやってきて妻は精神的に不安定だからどうのこうのと言って、連れて帰ると言われたらどうだ? ほとんどの医者は、厄介払いできるんだから、さっさと旦那に引き渡す」
     「その状況は今もあんま変わってねぇ」と吐き捨てるように真田は言った。
    「実際に、精神的に不安定な妻を支える夫ってのもいないわけじゃねぇ。医者は警察でも法律家でもねぇんだ。できることはすくねぇし、だいたい何もわかってねぇんだ。やっと最近は被害者の対応ができる専門看護師のSANEってのができてるが、数は全く足りねぇ」
    「詳しいんですね……」
    「おめぇの母親を探すときに調べた。それからずっと、情報は追ってる」
     「おめぇもちっとは勉強しろ。SANEはアメリカで始まった制度だぞ」と睨まれる。
    「そんときの鈴子は、追い詰められて正気じゃなかった。おめぇを捨てる、捨てないの話じゃねぇ。わけがわからない状態で、ただ逃げたんだ。現実からな」
    「それ、本当の話なんですか? そんなの同情するしかない話じゃないですか。あなたが、和久井鈴子の行動を好意的に解釈しただけでは? あなたが僕を母親に会わせなかったのは、本当はそんな話じゃなくて、もっと彼女は残酷なことを……」
    「事実だからお前を母親と会わせなかった。鈴子はな、同情に値する可哀想な女なんだよ。会って話せば、お前はきっと母親の境遇を理解するし、ゆるしたと思うぜ」
     唇を歪めて真田は笑った。「鈴子は母親で、おめぇは息子だからな」と続ける。その言葉は力なく静かだった。
    「どういう意味です……? あなたは、僕が母親と和解するのを邪魔したかったと?」
    「ああ、おめぇは母親をゆるす必要はねぇ。どんな理由があれども、おめぇが心に負った傷は深い。一生、誰かを恨んで生きていくのに値する」
     「恨む相手は俺でもいい」と言った。妙に毅然とした真田の態度に、「何を言ってるんですか、あなたは」と言い返す。
    「勝手に決めないでください! 僕の人生は僕のものだし、母親をゆるすかゆるさないかも、僕が決めることです。あなたが、決めることじゃない」
    「苦しむことがわかっていてもか? お前が母親と会って和解したら、この先ずっとお前はあの家族との繋がりができるぞ。死ぬまでな。自分を傷つけた相手と切り離せなくなる。そんな苦しみをお前が背負う必要はねぇ」
    「なぜ、一緒に苦しみを背負ってくれなかったんですか。あなたさえ、そばにいてくれればよかった。僕はきっと乗り越えられた。母親への恨み続けても、ゆるしてしまっても。でも、あなたは勝手に決めて、勝手に去った。僕を置いて行ったのは、捨てたのは、あなたじゃないか」
     「あなたは勝手だ」と言う。一気にまくし立て、そのあとつーっと涙がこぼれてしまった。ここぞとばかりに責め立ててやろうと思ったのに、うまくいかない。悔しくて唇を噛む。
     当の真田は虚をつかれたような顔をしていた。本当に一度も、そんなことは考えたことはなかったらしい。フリーズしてしまったガタイのいい男をみて、譲介はため息をついた。
    「あなた、すごくバカなところがあるから」
     手で涙をぬぐって言う。本当は真田のことを責める気持ちなどない。なんの見返りも無しに、自分を引き取ってくれたこの男に、なにかの落ち度があったとしても、些細なことだ。いま、自分がここに居られるのは、全部この人のおかげだ。
    「どうせ、ゆるしてしまったのは、あなたなんでしょう。母親をゆるし、家族とのつながりを断ち切れなかった。その苦しい自分の若い頃を、僕に投影しましたね?」
     真田は顔をしかめて「俺を分析するなよ」と苦々しげに言った。
    「ま、そうだな。俺はバカだった。あんな頼りないガキが、こんなデカくて生意気な奴に育つとは思ってなかったんだからな。俺とお前はあんまりにも違う」
    「あなたには、あなたがいなかった。僕には、あなたがいた。その違いですよ」
    「なんでぇ、その理屈は……」
     目を伏せ壁の方を見て、彼は「悪かったな」と低い声でぼそりと言った。
    「母親を看取ったのは俺だった。もう家族はほかに居なかったからな。最後はがんで苦しんでな。その頃は緩和医療なんてものもなかった。母親は俺に治療はさせなかった。だから、病室に通った。医者ではなく息子として」
     ぼそぼそとした声で彼は誰に言うでもなく独り言のように語っていた。
    「命が尽きる直前、兄の名前を呼び始めた。会いたい、会いたいとな。俺は必死で兄を探した。その結果、兄を追い詰めて爆死させた。俺が探さなければ、兄も死なずにすんだかもしれねぇな。俺は、母親に兄が死んだと言えなくてよ。最後まで、母親は兄の名前を呼びながら死んだ。俺を兄だと思って……手を握って……」
    「それって……あなたの名前は呼ばずに……」
    「あの人には、兄が全てだったんだな。そういう母親だった」
     そう言うと、彼は唇だけでふっと笑って「俺じゃなくて、兄さんがそばにいてやれれば、一番よかったんだがな」とつぶやいた。
    「そんなのっ、そんなのあんまりじゃないですか。あなたが息子で、あなたがそばにいて、それなのに……」
    「医者ってのは損だな。こういうとき、理解しちまえるもんだ。病状見て、使ってる薬見て、何が起きてるかわかる。俺の母親も正気じゃなかった」
     「ゆるすしかないだろう」と力無い声が言った。
    「こういうのは、理屈じゃねぇんだなあ。母親を恨めねぇんだ。だから、おめぇには、こういう経験は必要ないと思った。忘れて、生きていければ、それが一番いいと思ったんだがな」
     譲介は涙がこみあげてくる。「可哀想なのはあなたじゃないか」と思った。過去のなかに閉じ込められて、ひとりぼっちで、母親の記憶に縛られている。
    「そばにいますよ。僕はずっと一緒にいます」
     真田は「はぁ?」と怪訝な顔でこっちを見る、
    「あなたがいてほしいのは、僕じゃないかもしれない。それでも、そばにいます。一人にしませんから」
    「何言ってんだ。こんな老い先短いジジイにかかわってる暇はねぇだろ。アメリカで医師免許とるんだろ?」
    「一緒にアメリカに行きましょう。僕が朝倉先生に頼みます。K先生にも。なにか方法があるはずです」
     なにも飲み込めない顔で「へぁ?」と妙な声を出す真田に、「僕があなたの死に水を取るっていったでしょ」と苦笑して言う。
    「何言ってんだ、おめぇは。さっきの話は聞いてたか? 俺だって、正気を失って、おめぇのことなんか忘れて、別のやつの名前呼びながら死ぬかもしれないんだぞ。そしたら、おめぇ……」
    「そうなったら、僕、ものすごく泣きますね。わんわん泣いて、あなたを困らせます。それに、朝倉先生にも泣きつくし、K先生にも電話します。そして、あなたの病状みて、使ってる薬みて、理解して、あなたのことをゆるします」
    「そんなことさせるわけねぇだろ。ふざけんなっ!」
    「ゆるさせてくださいよ。苦しませてくださいよ。あなたのそばで」
     かっこよく言うつもりだったのに、どばっと涙と鼻水があふれてしまった。そして、無理やり、真田に抱きついた。
    「僕はね、あなたの過去を取り戻すことはできない。なんにもしてあげられないんです。でも、未来なら一緒に歩めるから。そばにいさせてください。少しでも背負ってるものをわけてください」
    「いや……おめぇにそんなことさせるのは……」
    「ずっと、あなたから欲しがってばっかりだった。今度は、僕があげたいんです、あなたの欲しいものを」
     顔を上げて、じっと彼を見て言った。
    「一人で死にたくないんでしょう?」
     真田は表情は凍らせたが、わずかに瞳が揺れていた。「バカが」と掠れた声が漏れる。
    「俺はな、もうなんにもねぇんだ。去年、肺炎にかかって死にかけたときに思った。ああ、これで終わりかってな。そんときに、俺はな……神代に電話して、おめぇに繋いでもらおうかと思った……死に水取るって、お前が置き手紙なんかするもんだからな……」
    「かけてくれればよかったのに……」
    「ひでぇ話だ。俺は自分が母親を看取るのに、あんなに苦しんだのに、おめぇにやらせようとする」
     引き攣った顔をする真田の告白に、譲介は「バカはあなたです」と返す。
    「死ぬときにまで、他人のことばっか考えて。僕の心配より、自分の心配してください。あなた、死にかけてるんですよ?! せめて、死に方くらい、わがまま言ってください。ちゃんと僕があなたを引き取りますから」
     真田は顔を背けて「おめぇな」と言って、そのまま言葉を詰まらせた。
    「アメリカに行って、治療も継続して、できれば医者の仕事もやりましょう。手術だってできればいいですね。まだ大丈夫、できますよ。僕がそばで支えますから」
    「なんだよ、おめぇ、急に生意気言いやがって」
    「あなたがガキだからでしょ。自分の欲望を押し殺して我慢して。そんなのお腹が痛いのを言えないガキと一緒です!」
     一瞬、ぽかんとした顔をしたあと、彼は苦笑した。
    「言いやがるな。クソガキが」
     そして、にゅっと腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。
    「もう、手放してやれねぇぞ? いいのか? どこにも去ってやれねぇぞ?」
    「なんなんですか、その確認。それはね、どこにも行かないで、ここにいて、って言うんです」
    「おめぇ、も一回言えよ、さっきの」
    「はぁ? ……あぁ、ずっと、あなたのそばにいますよ。約束します」
     「わかった」とため息をつきながら、真田はこちらを向き、「世話になるぞ」と短く言う。その顔はほっとしていて、ユウトと重なった。なんだ、この人も、ずっと怖かったのか。他人に拒絶されるのも、受け入れられるのも。
     譲介は「ええ、よろしく」と笑った。
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    flowerriddellk2

    DOODLE渡米5年後の譲介とテツの再会の続きです。カプ描写はないですが譲テツの人が書いているので閲覧注意です。捏造もりもり、モブが出ます。
    失われた時を求めて(中編その2) 日中の気温はどんどん上がる。外はよく晴れ、蝉の鳴く声が響き渡っていた。ぎらぎらと輝く太陽が、真田の世話をしている庭を照らしている。
     譲介はいまだに受け入れ難い。いくら闘病生活で気が弱ったとはいえ、ドクターTETSUが、庭いじりをして余生を暮らすなんてありえない。
     手元の細かな字で書かれたノートに目を落とす。神代が診療所のカルテを全て電子化しているのに対して、真田は変わらず手書きだった。若い時から全ての治療記録をノートに書き留めている。譲介は高校生の頃、彼の大量のノートを読み込み、頭に叩き込んだ。いまおもえば、非倫理的行為も含む記録で、若者に読ませていいものではない。ひどい医者だと思う。
     一番新しいノートを渡された。一人の少年の記録がつけられている。あさひ学園の小学校五年生の男の子、ユウト。半年ほど前に盲腸で手術をしていた。本人が痛みを隠していたため発見が遅れ、相当ひどい状態だったらしい。そこにある文字を譲介は見つめてはため息をつく。
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