ラビとお月見「ケヴィン、せっかくだから今日はフォルセナの伝統行事を教えてやるよ」
えーと、今オイラ、獣人王に人間の文化勉強しろって言われてフレディと獣人王の側近と三人でフォルセナに来てる。
英雄王が直接いろいろ教えてくれるんだけど、オイラこういうの全然慣れてないから時間かかるし頭使うし。すごいつかれる。
応接間からでてなんか外を眺めてたらあたりは真っ赤で、オイラ伸びながら大きなあくびをしてると、入り口で待っていたデュランとフレディを見つけた。
「あら、すっかり目までこすって完全にお疲れモードじゃん」
「おいおい、大丈夫か?」
「うん……ふぁあああ、オイラ頭使うの得意じゃない、獣人王と手合わせするよりもツライよ」
「ははは、まぁ国を治めて、他国と交流って簡単じゃねぇからな、よく頑張ってるよお前は」
デュランそう言ってオイラの頭をポンポン叩いた。それみてフレディがはなしかける。
「あっそういえばケヴィンはこの後デュランの家行くの?」
「うん、デュランがフォルセナの伝統行事教えてくれるって」
「へぇ〜〜〜〜〜〜そうなのぉ〜じゃぁおれはおじゃま虫かな」
そういうとフレディが口を抑えながらデュランをみて笑っていた?なにがおかしいのかオイラはよくわからなくて、二人を交互に見た。
「は?なんだよ、そのツラ、はらたつな」
「まぁ今日は遅くなってもお咎めしないっしょ、まぁうちの皇子さまよろしくな騎士様よぉ」
「うるせぇ、お前に言われなくてもわかってるさ、深夜になる前には必ず戻すから安心しろ。ほら行くぞ」
「うん。フレディ、あとで側近にも言っといてくれるとたすかる」
「おう、そいつはおれにまかせとけって。あぁそうだ!純粋な皇子さまに変なこと教えるなよ!」
「変なことってなんだよ!んなことするか、お前じゃあるまいし!」
そう言われてデュランと一緒に城をでてデュランの家にむかった。やっぱりだいぶ陽が落ちてる。ほんとは昼も街いろいろとみたかった、そうつぶやいたら。いまはあまり代わり映えしないから対して面白くないってデュランに言われた。けど、四季っていうのがフォルセナにはあって、もう少したったら葉っぱが真っ赤に染まるんだって。その時またみれたらいいな。
デュランの家についたらがしゃん!と奥からものすごく大きな音、聞こえた。
「おい、ウェンディなにやってんだ!!おばさんはいねぇのかよ!」
それ聞いたデュラン、乱暴にとびら開けて中入っていっちゃった、オイラも続いてそっと覗きながら家の中に入った。
「あっおにいちゃん!もう帰ってきちゃったの!?」
「なにやってる!あぶねぇ、割れてるじゃねぇか、皿落としてんじゃねぇよ」
「だって、ラビ団子乗せる大きなお皿あんな高いところにあるんだもん」
「使いたいならそれ先に俺に言えよ、ところでおばさんはどこいった?」
「さっきお友達によばれてでかけてるよ、でもお兄ちゃんとケヴィンさん来るの知ってるから夜にはもどってくるとおもう」
ふたりで大騒ぎしている台所をすっと横から覗いていると、ウェンディが気がついたらしく手をふってくれたから、オイラも一緒に手をふる。
「ケヴィンさん!こんにちは!あっちょっとまって、お皿片付けるから」
「いいよ、俺がやる。ほらこの大皿、お前はこれに作ったその団子並べてろ」
「二人共、オイラも手伝う」
「あぁお前は来賓だし手出しすんな、そもそもその着てる服汚すわけいかねぇだろ。そこの椅子にすわってまってろよ」
「うっ、うん」
デュランがそういうと、何もさせてもらえない、仕方なくオイラ椅子にすわってまってることにした。きょろきょろとみわたして匂いをかいでみると、なんだかとても懐かしい気がする、そんな来てないのに。
「はぁ〜わりぃな待たせて」
「ウェンディは台所で何してたんだ?」
「あぁ、一生懸命こんなラビ団子つくってた」
「おにいちゃん、なんで今出しちゃうの?おどかそうと思ったのに!」
「はぁ何言ってんだ。こんなんで驚くかよ」
見せてくれた。まるくてちょこんといしたラビの形した団子、ちょっと甘い匂いもするけど。なんでわざわざこれつくってるんだ?
「ふつう、ラビ食うなら、つかまえるんじゃないのか?」
「今日は十五夜でな。フォルセナでは年に一度、外で満月をみながらラビ団子と特別な酒を豊穣の女神様に供えて、祈ってからソレを食べるんだ」
「えっ、月なんていつもみれるのに、そんなことわざわざ毎年、やるのか?」
「そうよ!今日は特別に大きな満月なの!お月さまには月に住んでるラビが団子をつくるためのお餅ついてるって言われてて、それに見立ててラビ団子つくるのよ!」
「……へぇ」
「珍しく反応薄いな」
「うーん、よくわかんない。月夜の森はずっと、月浮かんでるから。どっちかが欠けても、どっちかは満月。わざわざそんなお祝いしない」
「まっそうだろうな。とりあえず夜になったら俺たちにつきあえよ、お前のとこじゃ体験できないことだし」
「う?うん、でもそんなでかい満月じゃ、オイラ我慢できなくてウルフになっちゃうかも」
「えっあのもふもふになってくれるの!?ねぇねぇ、なったらちょっとさわってもいい?」
「う〜。いいけど、しっぽはだめ」
「わぁい、やった!」
「もふもふじゃねぇだろ、まぁ暴れなければ別になってもかまわねぇけどな、そこは抑えられるか?」
「うん、それはだいじょうぶ」
気がつくとすっかり外、くらくなってた。おばさんはまだ帰ってきてないけど。
オイラ達三人で一緒に庭にでる。広げた布の上、小さなテーブル置いて、その上に大きなお皿にはちょこんと並べられたラビ団子と、お酒を入れるための盃がふたつ並べられて、デュランがそれぞれに酒注いでた。
「安心しろ、お前に呑めって言わねぇから」
あたり見渡すと、住んでる人間たちみんな外でて、月をみあげてる、オイラそれみて不思議に思ってたけど。へぇ、フォルセナでこんな大きな月みれるんだ、ってだめだ腹の奥からどくどくって体中波打ってるのがわかる、うっこれは我慢できないかも…
「うーーーこれだけ月でかいと、オイラ、ウルフになりそう」
「やっぱり血が騒ぐのか」
「うん、暴れたいってかんじじゃない、けど。でもまわりみんな月みてる、ウルフになったら怖がるからなんとか我慢してみる」
「え〜ケヴィンさんがもふもふになっても怖くないよ!むしろ早く触りたい!」
「……あはははは、そっそうか……」
「おいケヴィンが返答に困ってるだろ。そもそももふもふじゃねぇし、気軽に触るもんじゃねぇ。あぁお前はお前で無理すんなよ、我慢できなきゃ言えよ」
「うっうん…ん?」
なんか、あそこの茂み部分だけうごいてるようにみえた、なんだろ?オイラ思わず鼻を鳴らしながら、茂みにそっと近づいた。
「おいどうした?」
「茂みになんかいる、うわあああ!!!」
勢いよく黄色いボールみたいなのが飛び出したとおもったらオイラの顔に思いっきりあたった、びっくりしてぎゃっと叫んで、我慢できなくて思わずウルフになっちゃった。
「わぁ、ケヴィンさん真っ白もふもふ!」
「おい、そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ、なんでこんなところにラビがいるんだよ、大丈夫か?」
尻もちついて顔を抑えているオイラのそばにデュランが近寄ってくると、ラビは驚いたように突然はねてそのままオイラのしっぽの中、ずぼって、入った。
「え?うっうそ!?」
オイラ思わずしっぽを振ってラビを追い出そうとしたけど、全然振り落とせない。うわ!痛っ、噛まれた!しかも追い出されないようにってしがみついてくる。
「ぎゃぁ!いっ痛!うぅうう〜、なんで出てこない〜」
「あぁ、お前のしっぽ黄色いからこいつ隠れ蓑にしてんのか。よしまってろ俺が取ってやる」
え、なんかよく見るとデュランの顔怖い。ラビがデュランを見た瞬間、悲鳴みたいなのあげてまたずぼってオイラのしっぽに埋まった。大丈夫かな?
「てめぇ〜〜ケヴィンのしっぽに埋まってんじゃねぇ〜〜〜!!離れろ、クソラビ!」
デュランがラビに触れた瞬間、ラビが捕まりたくないと言うような感じで、オイラのしっぽ噛んでこんどは思いっきりひっぱって、痛い!!やめて〜〜〜!!
「ぎゃあああ!デュラン痛い!痛い!やめて〜〜!!」
「もう!そんな殺気立ててラビ引っ張ったらケヴィンさんのしっぽ噛んだまま離れないよ!わたしがやるから、おにいちゃんは離れてよ!」
本当に痛くて、オイラもやめてって涙目になりながらデュランをながめた、今はウェンディに助けてもらいたいたかった。
「う、くっそぉ……ちっ仕方ねぇな」
ウェンディが、オイラのしっぽの前で膝をついて埋まっているラビに話しかけ、ゆっくりと腕を伸ばした。
「びっくりしたから、隠れたかったんだよね?私たちあなたを傷つけたりしないから大丈夫。もう乱暴者はいないよ、ほら出ておいで」
敵意がないってわかったらしく、しっぽから顔を出したラビはひと鳴きして、ウェンディの腕に収まってくれた。あぁ漸くオイラから離れてくれた……
「うう痛かった…ウェンディありがとう、助かった……」
だいぶ騒いだきがするけど、あたりの人間たちはそんなに気にならなかったみたい、よかった。立ち上がろうとしたけどあぁそうか、オイラ座ってたほうが良さそうだ。
みんなから死角になりそうなところで座り直すと、ラビを抱えたウェンデイがなんかキラキラしながらオイラのことをみてくる。
「ねぇねぇ、今触ってもいい?」
「う、うん」
ウェンディが笑顔でもふもふ!っていって顎とか首とか頭触ってくる、そっそんなに気持ちいいのかなぁ?よくわかんないけど。ラビはウェンディの腕からぴょいんと飛び跳ねて今度はオイラの腕の中に収まった。
「座ってるとケヴィンさんもふもふの白い塊!もふもふ〜わぁきもちいい!」
「あははは……耳、くっくすぐったい…」
「おいウェンディそのへんでやめてやれよ」
普段ラビは群れでうごいてるけど、あたりをみてもどうもこいつ一匹だけだ。なんでデュランの家の庭にいた?不思議に思って、真正面に抱えてきいてみると、きゅうってなきながら話してくれた。
「群れとはぐれ困ってたのかお前、そうか、オイラの匂い人間じゃないから見つけてついてきちゃったのか。あっ、うん、しっぽ噛んだの怒ってないよ」
あとで森に連れ帰ってやるって言ったら、しっぽ噛んで引っ張ったのあやまってくれた。このラビ、食べられるおもって、怖くて隠れたかったんだって。
「デュラン大丈夫だよ、こいつオイラたちと戦う気ない」
「え、ケヴィンさんラビの言葉わかるの?すごい!」
「あ〜なんかこいつそういうところあるんだよ、敵意がない動物とは無意識にちょいちょい喋ってるんだよな。よし仕切り直すか、団子と酒は無事だしな」
「うん、そうしよう。あまり遅くなったらお城の人心配しちゃうしね」
「ケヴィン、おまえはそこでラビ抱えて見てろよ」
デュランはそういうと、ウェンディの肩を叩いて、一緒にすわってなにかお祈りはじめてた、たぶんそれが豊穣の女神へのお祈りってやつかな?
月夜の森、畑ってないから、豊穣の女神っていうのも教えてもらうまで知らなかった、オイラまだ知らないことだらけ。
「なんならお前も一緒に月見るか。ん?オイラの頭の上ならいいよ」
ラビが腕の中でそわそわしてたから、そうきいてみた。ありがとうとひと鳴きしてぴょんいんと大きくはねて、オイラの耳の間におさまった。
「十五夜のお月さまって大きくてきれいだから私も好き、ケヴィンさん、はい!ラビ団子いっぱいたべていいからね!」
「あっありがとう!もぐもぐ……うっうまい!!ウェンディのつくるお菓子うまいよ!」
「喜んでくれて嬉しい!」
ウェンディから水をもらいながら、オイラ夢中でラビ団子食ってると、なんか隣りに座ってるデュランちょっと怒っているようにみえた。なんでだ?
「あーなんかさっきからおまえの耳の間にうまくおさまってんなぁそいつ」
「うん、頭ならいいよって言ったし。あっそうだウェンディの作ってくれたラビ団子うまいぞ、お前も食う?」
オイラ、頭の上のラビにちぎってラビ団子あげたらひと鳴きして食べ始めた。
「ラビって草しか食わねぇかと思ったら団子食えるのかよ。ちっまるで共食いだな」
「共食い!?なんで?ん、デュランなんでそんなイライラしてる?」
「あぁ!?イライラしてねぇよ、ったくせっかくお前と月見してんのに……」
腕くんでなにかぶつぶつ言ってる、よくわからない、けど、ウェンディがくすくすって笑いながらデュランの肩叩いてた。
「やっだおにいちゃん、なに妬いてるの?せっかくだから食べさせてもらったら?」
「うっうるせぇ、妬いてねぇよ!お前も余計なこと言うな!」
「んデュラン、なにか、焼いてたのか?くんくん……煙のにおいしないけど」
「ちっちげぇよ!俺はなにも焼いてねぇ!そっそういう意味じゃねぇ!」
「???」
なぜかデュランは顔が赤くなって、お供えっていっていた酒を一気に煽ってさらに赤くなってた。
その後すぐステラおばさんが帰ってきて、夕ご飯つくってくれて、みんなと一緒に腹いっぱいたべて……うまかった。
あっ、ちゃんとウルフからひと型にもどったし、ついでにラビと仲良くなって、ウェンデイにラビと仲良くなりかたも教えてあげた。もっといっぱい話したかったけど、あまり遅くなったら側近に怒られるからだめって言われた、うう仕方ない……
ちなみにラビは城に戻る途中また会おうって約束して茂みにもどした、多分連れて帰ったらフレディにこいつ食べるって言われるし。
あのときデュランが「やいてる」ってウェンディに言われてた意味、フレディに聞いてみたけどずっと笑ってばっかりで結局教えてくれなかった。