君を一目見たときに、運命が衝突してきた、なんて乙女ゲーでも最近は出ないような甘ったるい言葉が思い浮かんだんだ。
ワルド・ドラルク(ぴっちぴちの36歳)
吸対の隊長職を務める傍らで
竜の一族の唯一の御曹司
非常に有能な人物であり、彼が解決した事件は数多に上る
性格は人を食った所はあるが、いたって温厚であるうえに紳士
とまぁ、一見すれば私の経歴は傷一つ見当たらない珠玉だと言えると思うが
だからこそ実父や一族の年配者、果ては職場の同僚から上司や、その上職場関係でつながりのある知己に至るまでが口々に言うのだ
『ご結婚は?』と
ほっとけと思う
本当に心底マジで
こちとら忙しい合間を縫ってジョンの世話やゲームすることに時間を使いたいんじゃ黙っとれ、と。
言わないけれど
言えなかったけれど
だからこの前実父がその親友(笑)とともに我が家にいらしたとの「ドラルク、素敵なお嬢さんはまだなのかね?」にブチ切れたのだが
ええ
そりゃあもう
その場で「若輩者故どのお嬢さんも素敵だと思うと決めかねてしまうところもありまして。もしよろしければ御父様のご紹介を願いたいのですが」と言ってしまうくらいには。
もう心底どうでもよかった
父が誰を連れてこようが、父が連れてくる人物なら安心な上、結婚という既成事実だけを果たせばいいんでしょうにという自暴自棄もあった。
だから
どんな人物が来ても、構わないと思っていたのに
***
ココーーーーンと鹿威しの音が響く中で
横に座している父の顔は蒼白だったし
父と対面している祖父は、なぜかピースサインをしているし
そして
祖父の横にいる見事な銀髪にバラの赤を思わせる瞳を持つ吸血鬼の男は「なぁ?これ食べていい?」なんて無邪気にテーブルの上に広げられた懐石料理に目を輝かせていたのだけれど
そう
男
男である
ちなみに私も男であるからして、ここで何故に祖父がこの男性を呼んだのかは分からないけれど
それでも
「ロナルド君、と言ったかね?」
死にそうな顔になっている実父を横目に、お見合い相手に名前を問えば、懐石料理を口にほおばりつつも、コクンと頷く
「そうか。ねぇ、挙式はいつにしようか」