愚か者どもの夜 くしゃくしゃになったシーツに必死に縋って、切れ長の眼に涙を溜めるジェイミーの姿に、ルークは欲情するのを隠せなかった。
ぐすっ、と鼻を啜る音が聞こえて思わず笑みが零れる。口に出せば後が恐すぎる、しかしどうしても声を大にして言いたくなるのだ。ジェイミー、可愛い、と。
「っおまえ、今、なんか言いかけた?」
「ああ?気のせいだろ」
「あ、うぅ…んっ」
ごまかすようにへらりと笑って見せ、それからぐぐっ、と腰を押し進める。持ち上げていた長い脚が空を蹴るのを愛おしげに見遣り、痛くないか、と形だけの心配をしてやった。ジェイミーからどんな返事が来てもやめるつもりは毛頭ないのだ。ただ、強引に押し倒して行為を進めてきた恋人がこうして時折見せる優しさにジェイミーは弱く、本当は辛いだろうにそれらを我慢して大丈夫だから、と頷く健気な姿をルークは気に入っていた。
「痛かったら言えよ」
「んんっ、わかったからぁ、……はやくしろ、」
「はは、かわいいなァ、ジェイミー」
「あ、あう、ルーク……るーくぅ……」
もうこうなってしまえばルークの勝ちだ。飴玉のような瞳がとろん、と蕩けて今にも零れ落ちそうに揺れている。はふはふと浅い呼吸を繰り返す唇も、汗が滴る薄い頬も、細身だが鍛えられた褐色の身体も、どこもかしこもうっすらと紅く染まり何とも艶やかで、ルークは満足げに目を細めた。
快楽に咽び泣く段階まできてしまえばジェイミーはルークが何を言っても喜ぶのだ。可愛い、女の子みたい、色っぽい、愛しい。意味をちゃんと理解しているのかは解らないが、自分の言葉にいちいち反応して嬉しそうに締め付けるジェイミーの後ろがルークは好きだった。気持ちいいかと問えば、気持ちいい、もっとして、と上擦った声で返ってくるのがたまらない。
「ああ、もう、お前ほんとかわいいよ。なあ、ジェイミー♡」
震える瞼に口づけて、耳元に唇を寄せ囁く。びくん、とジェイミーの身体が跳ねて、ああああっ、と一際高い声が上がる。その一瞬、ぎゅうっと後ろがルークの性器を強く締め付けた。どうやら達したらしい。焦点の定まらない瞳でぼんやりと宙を見つめたまま、あ、あ、と短く喘ぐジェイミーに、ルークはくすりと笑った。名前を呼ばれてイったのか、可愛いと言われたからか、耳元で囁かれたせいか、はたまたその全てか。何にせよ、自分の声と言葉、ただそれだけがジェイミーの射精の引き金となったことが愉快で仕方なかった。本当に可愛くて、愛しくて、愚かな男である。
「かわいい、ジェイミー、可愛い」
「もう、わかったからぁ……っルーク、はやく、もっと……あ、」
「ああ、そうだな。次は一緒にイこうな」
もうずっと開きっぱなしのせいで渇いた薄い唇を潤すように舌でなぞって、呼吸まで奪い取るように口づける。咥内を暴く舌に必死で応えるジェイミーがルークの背中に腕を回し、がり、と爪を立てた。同時にルークはジェイミーの舌と紅い唇に甘く噛み付いた。
どうせ何も残らないのだ。
彼らが孕むのはいつだって狂気ばかりである。