一人で眠るベッドが嫌いだ
冷たくて固くて、さみしいベッドで眠ることが嫌いだ。
ダンデはハロンをでてシュートで暮らすようになってからベッドで横になるのが嫌いになった。
実家の自分のベッドとは違い今ダンデの住む家にあるベッドはとても大きくて、マットもふわふわふかふかなはずなのに初めてそのベッドに横になった時何故か冷たくて固くて寂しく感じてしまって全く眠ることができなかったのだ。
それ以来ダンデは一人で眠るベッドが苦手になった。
苦手はいつの間にか嫌いに変わり、ダンデは眠るときはソファか、床でリザードンと共に眠るのがダンデの習慣になっていた。
だから、ここで暮らしている間ベッドを使うのは初日が最初で最後…‥……そのはずだったけど。
ふわふわ、ぽかぽか、大好きな人の香りに包まれてダンデがもぞもぞと腕の中で寝返りを打つ。
むにゃむにゃと口を動かしながら夢の中で笑う大好きな人の名前を呼び、傍らにいる大きなぬくもりに額を擦り付ければ、優しく頭をなでられ、それが嬉しくて口元が緩む。
少しずつ意識が浮上してくる、薄く薄く開いた目で自分を抱き締めるキバナの口元を見ればふにゃりと緩んでいる。
何かいいことがあったのかな?
起きたら教えてくれるかな?
外からは雨音が聞こえてくる。
今日キャンプにいく予定だったけど、いけなくなっちゃったな……
でも、キバナにくっついていられるからそれでもいいなぁ……
微睡みながらダンデは考える。
こんな穏やかな時間が過ごせるようになるなんて知らなかった。
こんなに一緒にいて幸せになれる人に会えるなんて思わなかった。
バトルの最中の苛烈な時間だけが自分を生かす糧になる。だから、微睡んでいる暇なんてなかった。要らないと思ってた。
キバナ、キバナ……大好きなキバナ。
俺が知らなかったものを一つ一つ丁寧に教え、俺が落として、捨ててきたものを拾い集め丁寧に丁寧に積み上げ俺の空いた穴にはめてくれたキバナ。
大好き、大好き……
眠りと覚醒の狭間でダンデがそんなことを考えていたらキバナが
「ダンデ愛してるよ」
と言って自分を抱き締める腕の力を強めた。
「!!!!!!!!」
意識が一気に覚醒し、思わず目がぱっちりと開きそうになるのをすんでのところで耐える。
あまりにもキバナが幸せそうに、愛おしそうに、そんなことを言うから……
むずむずと愛しさがこみ上げ思わずベッドの上でゴロゴロと転がりたくなる。
でも、それを耐えて、キバナがまた穏やかな寝息をたて始めた時ようやくダンデはパチリと目を開けた。
目の前には穏やかに寝息をたてるキバナがいる。きっと今の俺は耳まで赤く染まってるだろうな……そんなことを考えながらキバナを起こさないように
「キバナ、俺も君を愛してるぜ」
と小さく呟きキバナの頬に口付けを落とした。
一人で眠るベッドが嫌いだ
冷たくて固くて、さみしいベッドで眠ることが嫌いだ。
でも君と眠るふわふわ、ぽかぽかの優しいベッドは大好きだ。
そうしてダンデはまた瞳を閉じ眠りについたのだった。
どれだけ時間がたっただろう?
ダンデが目覚めるとキバナはまだ眠っている。
外の雨はまだやみそうにない。
起き上がり、隣で眠るキバナ頭を撫でながら歌を口ずさむ。ハロンに伝わる歌、愛しい人が健やかで、幸せであることを祈る歌。
幼い頃かあさんがベッドで一緒に寝転びながら歌ってくれた大事な歌を口ずさむ。
キバナが幸せでありますように、キバナが健やかでありますように、この雨音が途切れ、キバナが目覚めるまでどうか優しい夢が彼を包みますように。
そんな祈りを込めダンデはベッドの上で歌を口ずさみつづけるのだった。