ここは地獄の一丁目 中庭を抜けて校舎へ向かう人影を見下ろした。赤いベストがちらりと見え、彼らがハーツラビュルの寮生だと知れる。頬にハートのペイントを施した男子生徒とスペードを施した男子生徒が前を行き、後からもう一人と一匹が慌ただしく彼らの輪に混じる。監督生と呼ばれるその生徒は正式な入学式にはおらず、つい最近、どこからともなくこの学園に編入してきたのだと噂で聞いた。
ブレザーの内ポケットを探って長方形の箱を取り出す。パッケージは見たまま煙草の形を模してはいるが、中身は子供向けに作られたチョコレート菓子だ。細い筒状のそれを一本取り出して包み紙を剥き先端を齧る。パッケージこそ違えど、口の中に広がる甘ったるさは向こうの似たようなそれと同じ味がした。懐かしさを感じるより先、すぐ隣に寄せられた体が太陽を遮って影を落とす。
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