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    岩藤美流

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    岩藤美流

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    アズイデワンライ「カップ」
    前回の「誕生日」の前、アズール視点の話。バグったアズールが双子に相談しているだけの話です。

    ##ワンライ

    「おまえたち。イデアさんへの誕生日プレゼントに何を贈ればいいと思いますか」
     アズール・アーシェングロットがソファに腕組みをしたまま腰かけ、そう尋ねて来たのは11月18日の夜であった。テーブルの上には会計書や誓約書が束になっており、それを整理していたジェイドと、ソファに靴を履いたまま転がっていたフロイドがアズールを見る。
    「おまえたちの考えを聞かせてもらいましょう」
    「えー、なんでオレたちがアズールのプレゼントを考えなきゃいけねえの」
    「僕たちより、あなたのほうがイデアさんのことは詳しいでしょう?」
     リーチ兄弟の言葉に、アズールは「ふぅ」と溜息を吐いた。
    「いいですか? 僕とイデアさんの関係については、二人共理解していますよね」
    「恋人同士、ということですね」
    「そんな身内のプライベートなこと、オレ、首つっこみたくねぇんだけど」
     フロイドが嫌そうな表情を浮かべている。ジェイドも「できれば先に会計書を処理したいのですが」と顔に書いてあったけれど、アズールは無視して続けた。
    「そんな僕が、イデアさんへのプレゼントに失敗したとしましょう。どうなると思います? ああ、僕はショックのあまり会計も経営もできなくなってしまうかもしれません。そうなったらおまえたちにどれだけ迷惑をかけることか……」
    「うわ、脅してるし」
    「僕は悲しみのあまり毎晩泣いておまえたちの部屋に押し掛けてしまうかもしれません。墨も吐いてしまうかも……」
    「えー、ウザ。そんなアズールの面倒見るの、ちょーめんどくせぇんだけど」
    「おやおや。そうなったらとても困りますねえ」
    「と、いうわけで。協力するのはおまえたちの為にもなります。これは僕たちが付き合い始めて最初の誕生日プレゼントになりますから、失敗は許されないんです。何か意見は?」
     アズールが眼鏡を正しながら尋ねると、フロイドが「はあい」と手を僅かに上げる。
    「ホタルイカ先輩のー、ほしいものをあげたらいいんじゃね?」
    「それがわかれば、こんな話はしていないんですが」
    「ゲームとか~、おかしとか~」
    「イデアさんはそうしたものにはこだわりが有りますから、変なものを贈ったら幻滅してしまいますよ」
    「じゃあ、何が欲しいか聞けばいいじゃん」
    「聞いたらプレゼントが有るとバレてしまうじゃないですか」
    「はあー? めんどくせ……」
    「では、先日突き止めた彼の『欲しいものリスト』から何かを贈られては? 変に考えて贈るより安全だと思いますが」
     露骨に嫌な顔をし始めたフロイドに代わり、ジェイドが提案する。そう、指定暴力団オクタヴィネルの力をもってすれば、イデアの裏アカウントも欲しいものリストも手中である。公開すればとんでもないことになる秘密を握っているのは双子も同じで、それを利用して以前はオルトの改造に踏み切らせたこともあるのだ。逆にそこからイデアの欲しがっているものを導き出せば早いし、安全である。
     しかしアズールは首を振った。
    「この僕が恋人だというのに、イデアさんの『想像通りに欲しているもの』だけしか与えられないというのは、どうかと思うんです」
    「アズール、頭おかしくなってね?」
    「イデアさんの言いそうな言葉で例えるなら、バグってるんでしょうか?」
     双子がわりかし酷いことを言っているのだけれど、アズールは気にした様子も無い。
    「やはり価値有る物には、サプライズと相手のニーズを満たすことの両立が必要だと思うんです。もちろん、欲しいものリストからプレゼントを選出する手はあります。しかしそれは、「あっ、僕これ買おうと思ってたんだ、ありがとう!」ぐらいの価値しかないでしょう? もっと彼が想像もつかなかったけれど、欲しているものを贈らないと」
    「めんどくせ……それオレたちに相談してもわかるわけねーじゃん」
    「残念ですが、僕たちではなんとも……それに、もしかしてアズールの中ではもう、答えは出ているんではありませんか?」
     その上で、自信が無いからこうして僕たちの連帯責任にしようとしているんですね。ジェイドがハッキリと言ったものだから、アズールはしばらく返事をしなかった。アズールひどーい、とフロイドがからかうような声を出しても、アズールは腕組みをしたまま黙っている。
    「アズール。これはあなたとイデアさん、二人の問題です。僕たちに責任を分配することが不可能なのはおわかりでしょう。協力はできますが、一緒にすることはできません。あなたにとって、イデアさんが大切であればあるほどに」
     ジェイドの言葉を最後に、部屋には沈黙が満ちる。フロイドが退屈そうに足を組み直す、僅かな衣擦れの音だけが響いて、それからもまたしばらく誰も言葉を発さなかった。
    「……わからないんです」
     ポツリ、と漏らされた言葉に、フロイドが顔を上げると、アズールは珍しく気落ちしたような表情を浮かべ、床を見ていた。
    「……何もかも始めてで。こんなこと、どんな参考書にも記していませんから、どうしたらいいか」
    「ええ、アズールは友達の一人もいない寂しい人だから、何もわからないでしょうね」
    「おい、傷口に塩を塗りこむんじゃない。人が真剣に相談しているのに」
    「だってアズール、わかんねーのに正解しようとしてんだもん。最初から無理じゃね?」
    「だから、わかろうとしているんだろう。おまえたちに何かいい案があれば、」
    「アズール」
     ジェイドに名を呼ばれて、アズールは言葉を呑み込む。
    「残念ですが、僕たちはあなたとイデアさんの恋人関係について詳しくありません。あなたより良い案を持っているとは思えない」
    「……」
    「ですが、友達の一人も作れない、人間関係初心者のあなたになら、一つアドバイスすることはできます」
    「……なんですか」
     何度も言われてムスリとしたアズールに、ジェイドは彼にしては本当に微笑んだような表情を浮かべて言った。
    「仮に、あなたの選んだプレゼントそれ自体が、イデアさんにとってありがたいものでなかったとしても。そのプレゼントを使って過ごす時間が、お互いにとって良いものであれば、それは失敗ではないかもしれませんよ」
    「……」
     ジェイドの言葉に、アズールは顎に手をやって考え込む。フロイドは溜息を吐いて、「ねーそろそろ仕事しねーと、このままじゃ残業になっちゃうじゃん~」と起き上がる。仕事を手伝う気になったらしく、会計書に手を伸ばしてフロイドや、作業を再開したジェイドをよそに、アズールはそれからもしばらく考え込んでいた。
     それから数分経って、アズールは「なるほど」と大きく頷いて、笑顔を浮かべた。
    「つまり! 保険を掛ければ僕が賭けに負けることはないということですね!」
     恐らく、ジェイドのアドバイスは曲解された。しかしジェイドもフロイドも、アズールさえもそれ以上問答を続ける気はなかった。「さあ、片付けて明日に備えるとしましょう」といつもの調子に戻ったアズールは、会計処理を再開する。


     彼が、海の揺らめきのような、あるいは焔の儚さのような深い青のティーカップを、1つずつ、茶葉と別に購入するのは、更に二週間後のことだ。
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