7-38-55目を開けると、白い天井と真っ白い人物が見えた。
頭がぼうっとして、現状が把握出来ない。私はいつ眠ったのだろうか。
だんだんと視界がクリアになってきて、私の顔を覗き込んでいるアンドルーだとハッキリと認識できた。
「ルカ。具合はどうだ?」
じっとアンドルーの目を見つめていたら、彼は眉間に皺を寄せて、目をそらす様に俯いた。
「まだ寝起きで頭がぼうっとするが、特に問題はなさそうだよ」
手を布団の中から出して、握って開いたり、足も動かしてみたがどこも痛みは無い。
「あんた、なんでここにいるのかわかっているか?」
「いや……それが全く思い出せない」
「3日も部屋から出てこないから心配で部屋のドアを開けたら、倒れていたんだぞ」
アンドルーは私が寝かされているベッドの横の椅子に座ると、手を組んで長い溜息を吐いた。
「ああ!思い出したよ!考えをまとめていたら、寝るのを忘れて集中していたかもしれない」
はあーっと長い溜め息がした、
「これで何度目だ?」
ギロリと睨みつけられ、体がビクンと跳ねた。いつもより声のトーンも低いしこれは随分と怒っているな……
「君も、私の性分をわかっているだろう?こればっかりは持病のようなものだから、私にもどうしようもない」
後ろ手をついてベッドから上半身を起こすと、アンドルーの怒気が伝わってくる。
これは、返答を間違えたな……
「あんた、いつか死ぬぞ」
「そうなる前に、君が私を見つけてくれるだろう?」
肩を竦めてから、微笑んで見せるとアンドルーは白い頬に朱が差した。
彼は私のこの表情に弱い。きっとまだ私を叱りたいだろうに、口をもごもごと動かすだけで何も言わない。いや、言えないのだ。
「……僕がいなくなったらどうするんだ?」
「私の前から、いなくなってしまうのかい?」
アンドルーの首にするりと両腕をまわして顔を近付けると、視線を逸らす。
突き飛ばす訳でもなく、手は組んだままで体を固くして唇をキュッと引き結んだ。
赤くなっている耳に唇を寄せる。
「いつもありがとう」
そう一文字ずつ丁寧に囁くと、体を突き飛ばされて私はまたベッドに倒れ込んだ。
「あんたなんか、くたばっちまえ!!」
アンドルーはそう言って立ち上がってバタバタと部屋の扉を開けると立ち止まった。
「……夕食はテーブルの上に置いているからちゃんと食べろよ……」
バタンと、扉が閉まった。
「くたばれと言った相手に言う言葉じゃないだろ」
腹の底からふつふつと笑いが込み上げてきた。
くたばれと残酷な言葉を放った彼の表情は、いつもの少し困ったようなそれとは違って、私が特別なのだと物語っていた。
それに、くたばれと言った相手に食事の心配をするなんてチグハグにも程がある。
「人は話の内容よりも、見た目や表情で他者を判断する、か」
先程はからかい過ぎてしまったが、彼は、声のトーンやジェスチャーが言いたいことと一致していなくてよく誤解されがちだが、そこがまた愛おしくて堪らないのだ。
「食事をしたら、彼の機嫌を取りにいこうか」
甘美な気分を味わいながら、デーブの上に置かれた食事に手をつけた。