エイプリルフール デートにでも行くか。テーブルの向かいから急に投げられた言葉に耳を疑った。デート? 誰が? 誰と? 頭に疑問符をいくつも浮かべて発言者を見れば、「俺とお前が、デート」と疑問を見透かした上で何を疑問に思っているんだとでも言いたげな返事が返ってきた。
「デート」急に投げつけられた言葉を口の中で転がしながら、手で持っていたマグカップへと目を落とす。食後のコーヒーがゆらゆらと湯気を立てていた。
「デート。行きたくないなら、まあ、いいけど」
即答しない青年の態度に少し拗ねたような口振りで男が言う。無精髭の浮かぶ顎を手持無沙汰のように触る。土曜日の彼は平日と違ってどこか気怠げで、大人の渋さとかかっこよさをどこかに捨て置いてきた可愛さがあった。今の位置からでは見えないが、後頭部に寝癖がついていることも知っている。そういう隙が愛おしい。
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