タイマーボールはリュックの中ゴツ、と背にした木が頭上で鈍い音を立てた。
文字通り木っ端となった幹がぱらぱらと降り注ぎ、ピーニャの帽子や肩にかかる。
ああ、マズい、と頭が警報を鳴らすも座り込んだその場から動くことは叶わなかった。
ちらりと周囲を見渡す。
周りを取り囲むコマタナたちは皆臨戦態勢をとっていて、少しでもおかしな動きをすれば一斉に飛び掛かられるだろう。
見慣れた相棒とはやはりどこか違うその刺すような視線に曝されながら、自分の正面に立っている姿を仰ぎ見る。
地面に腰を落としたピーニャの頭のすぐ上を防ぐように腕を伸ばし、ギロリとこちらを睨むように見下ろす目はコマタナよりも鋭いものだった。
進化をすれば自ずと力が強くなる。統制される側のコマタナと異なり、群れを率いる側となった「将」らしくその威圧感は並大抵ではない。
これでもまだ進化の余地を残しているのだから、恐ろしい種族だと改めて思う。
「…ボクはキミたちの縄張りを荒らすつもりは無かったんだけど」
ビワとの戦闘訓練の為カーフに向かう途中だった。キリキザンが率いるコマタナの群れも多いここは、ピーニャが先日捕まえたばかりのコマタナではまだレベル的に太刀打ちができない。
ビワが教えてくれた道は比較的野生のポケモンの出現率も低く、これまで何度か通ったがこの様な自体になったことはなかった。
何故だろうか、と考えて、自分を見るキリキザンのやけに獰猛な目にもしかして、と思い至った。
「あー…ボクは、別に、コマタナの長とか、そういうんじゃないから」
捕まえて以降、なんとか仲良くなろうと基本的にボールから出して常に傍にいた。その体の刃物にも慣れようと抱きかかえたり触れ合う機会も多く取っている。
だから、恐らく、自分からコマタナの匂いや気配がしたのだろう。
このキリキザンはピーニャを自らと同じ「コマタナを率いる者」と判断したのかもしれない。
群れ同士が出会えば、それは戦闘開始の合図だ。
相手の将を討って群れを吸収することで勢力を増していく。
つまり、
めり込ませていた木の幹から腕を引き抜いたキリキザンが、徐ろに手を空に掲げる。取り囲むコマタナ達がざっと構えを整える。統制が取られた軍勢。本来コマタナとは、こんなにも従順な行動が取れるポケモンなのか。
群から離れてひとり傷だらけで生きていた相棒が過る。
ああ、彼は、どれほど生き辛かっただろう。
それどころではないのに、頭を過ったのはまだ手のかかる自分のコマタナの姿だった。
キリキザンの冷ややかな目がピーニャを射貫き、その腕が振り下ろされる。
コマタナ達が地面を蹴る音が辺りに響いた。