炎天 忘れられない。## 25
沖縄に来て数ヶ月。
それこそはじめは〝あの人〟に〝仕込まれた〟身体が時折じわりと熱を持つ時が有った。
しかし、大切な子供たちの笑顔を見るたび、沖縄の美しい海の青を見るたび自分の身体が、あの人を思う気持ちがとても汚れた物にも感じられ、まるでその熱から逃れるように技と考えないように、意識をしないように努めた。
じりじり
今年の夏は去年より暑い気がする。
肌を焼くような日差しに目を細めてどこまでも青い空を見る。
あの人と繋がる空。あの人ともう一年は会っていない。あの人に変えられた身体も、意識して行われた禁欲に慣れて、すっかり毒が抜けた気がした。あの人への気持ちからも、寂しいと思ってしまう自分からも、身体の鎮火しきれない炎からも逃げる様に会えて連絡をせず、またに掛かってくる電話すら取らなかった。
はじめは辛かったが、今ではちゃんと、〝あさがおのおじさん〟が出来ていると思っている。
それなのに
「は〜、俺はお前がおらんくてカラっからに干からびてまいそうやっちゅうのに、呑気に空見て…、兄さんの心桐生ちゃん知らずっちゅうやつか」
パチリと胸の奥で火花が散った感覚。
は と短く息を吸って声の方向を見れば、さすがに暑いのだろう。ジャケットは脱ぎ捨てて、ワイシャツは肘上まで捲り上げ、まるで身が焼けると思うほどの視線を投げてくる男が居た。
「兄さん……っ」
逃げられたと思っていた。
何もかも、〝普通〟に慣れた気がしていた。夏の青さに、太陽の眩しさに、掻き消されたと思っていた。
なのに
じわじわ
「お前なあ、俺の気持ち舐めとんのか」
ぶわりと、汗が噴き出る。
背中に汗が伝う。土を被せて火を消したと思っていた身体の火は、決して消えてはいなかった。
耳の熱さ、首筋の熱。米神から頬へ、頬から顎の先端に伝う汗は炎天のせいなどでは無い。
「な、に言ってんだ」
電話なんかで俺が満足すると思ってんのか
あんたこそ舐めてるぜ。
炎を隠すように敢えて言った。言ってしまった。
この数ヶ月の〝努力〟がたったの数十秒で消えてしまった。じわじわと、あの人に溶けていく。
もう俺の目には、空の青さも、海の煌めきも、見えては居なかった。