蠍の心臓「ふむ……主人はどいつだ?」
「あれ」
男は指差した先へ視線を向けるとそちらへ歩き出した。なにかを話しているようだが会話は聞こえないしそもそも興味もない。商人同士の会話なんて打算まみれで辟易する。
見目の珍しさに声をかけられるのは慣れていた。そこまで含めて商売道具になり得ると、今の主人にはなかなか高くで買い取られたが結果はこうだ。扱いづらい性格を持て余されているのは言葉にせずとも伝わってくるし、声をかけてくる人だって言葉を交わすとすぐに離れていく。この見た目が売上に繋がったことなんて数えるくらいだ。
さて作業に戻ろうと材料を手に取ったところで床に大きな影が重なった。
「お前さん、今日から俺と一緒に来な」
「え?」
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