「どうぞ、お入りください」
馥郁たる紅茶に琥珀の蜜をひとしずくたらしたような、やわく甘い声が耳に響く。
久々に直接顔を合わせて、ホテルで食事を楽しんだ後、部屋に招き入れられる。自分のことを、友人として以上に好きだと告げる相手から誘いを受けるその意味を、流石に理解しているつもりだ。
チェズレイのいる部屋の中と、僕が佇んでいる廊下。
隔てる扉の内側に足を踏み入れることがどういうことがわかっているからこそ、思わず足を止めた。
そんな僕に気付いているのに、視線で促されることすらなく、チェズレイはただその場所に在り続ける。
いっそその手で引き寄せてくれれば……! 責任転嫁みたいに浮かぶ考えに、小さく溜息を吐いた。
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