「すみません、この鉢植を1つ。」
「かしこまりました。ご自宅用でよろしいですね?」
「?いえ、贈り物用で。」
「すみません、お客様。その鉢植は贈り物には出来ません」
家のダイニングテーブルの上にポツンと置かれた地味な鉢植の中に小さな白い花を付けた植物。
「何だ、コレ。」
キッドは同居人のエースに尋ねた。
エースは苦笑いしながら頬をポリポリかいて答えた。
「スノードロップっていう花を花屋で買ったんだ。」
キッドの誕生日花と聞いてと、付け足して答えるエースにキッドは怪訝な表情を浮かべた。
「俺宛の贈り物か?その割には服飾も何も無いが。」
「本当は、贈り物として買うつもりだったんだけど、店員さんに止められてな。」
「はぁ?」
「スノードロップは人には贈っちゃいけなんだって。」
何でも、花の言葉が変わってしまうのだと。
スノードロップの花言葉は「希望」という花言葉があるのだが、人に贈ると「貴方の死を望む」になるそうだ。
なんて物騒なモノを店に置いてあるんだよと、キッドはそう思った。
「でも、キッドの誕生日花だし。キッドみたいに可愛いし。」
「いや、何処がだよ。」
「俺はそんなの、望んでないし。だからこうして飾っとこうかなって。」
改めて、プレゼントは用意するからとエースは言う。しかし、キッドはその鉢植を自室に持った行こうとした。
「え、キッド?」
「"奪う"と"贈る"じゃ、意味は違うだろ?」
だから、これは貰っていくぜ、とキッドはスタスタと自室に入っていってしまった。
「いや....頓智じゃぁ、あるまいし。」
ふはっと、エースは笑いをこぼした。
数週間後、鉢植のスノードロップのひと房が押し花となり、キッドが読んでいる小説の間にブックマーカーとして挟まっているのをエースは見つけた。