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    hida__0808

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    みたまふ♀(まふ女体化) 途中で終わり

    みたまふ♀途中 女神を一匹転がすと、御手洗暉が暮らすワンルームはたちまち宮殿の寝室に変わる。
     神様が夢の中で見た曲線を型にしていのちを流し込み、適当な女の肚の中に放る。そうして生まれ落ちたのが真経津晨だった。美しい彼女の肢体は、美術館の真ん中に飾られていても何らおかしくないほど出来がよい。
     人形のような容姿でありながら、真経津はよく笑い、よく考える。生き物と人工物の良いところ取りを地で生きる美貌は、世の中に二つの不公平を知らしめた。
     一つは、天国で運用される人間の製造ラインが、オートクチュールと大量生産で分けられていること。もう一つは、神様の最高傑作たる真経津晨の深層に触れることが許された、幸運な男が存在すること。
     御手洗は、ごく平凡な人生を歩む、数字に強いだけの特異な人間だった。ある日、女神の放つ光に魅せられ、彼女の足元に転がり落ちた。すると女神は何を思ったか、御手洗を拾い上げ、懐に仕舞った。
     今まで、真経津晨の強さと美しさにひれ伏した老若男女は数多くいたが、全員が床の上で放置されるばかりだった。御手洗だけが、彼女の手のひらの上で踊ることを許された。
     真経津の手は冷たく、御手洗のために用意されたトウシューズは燃えていた。それでも、御手洗は舞い続けた。焼けた靴で爛れた足の裏にすら愛しさを感じながら、溶けて崩れていく足場にも感謝を覚えながら、彼女の手中で陥落していった。
     ある日、女神は気まぐれに御手洗に褒美を与えた。下手くそな(求愛行動)ダンスに値段をつけ、鑑賞代を勝手に支払った。
    「御手洗くんの好きにしていいよ」
     一生分踊り続けたって、お釣りがくるような富だった。
     真経津は御手洗の愛に応え、身体を明け渡した。身に余る栄誉だと分かりながらも、御手洗はそれを受け取らずにはいられなかった。負債が増えていく感覚に陥りながらも、手を伸ばさずにはいられなかった。
     不公平の儀はベッドの上で執り行われる。御手洗に拒否権はない。仮に、そんなものが与えられていたとしても、彼が行使するわけがない。御手洗はいつも震える唇で女神に触れながら、恐怖と興奮を綯い交ぜにした感情で全身を心臓に変えていた。

     メラビアンの法則によれば、人の第一印象は三秒で決まる。そのうち、視覚情報が五割を占める。服装、髪型、額や顎のアブラ加減。それらを見定めて、位置づける。そして、一度決まった印象は半年続く。あとは微調整程度に、好感度が上向いたり下ぶれたりする。たいていの人間ならば、品定めは一度で終わるのだ。
     しかし、真経津の友人たちは違った。彼女を取り巻く四人の怪物は(そこはやはりギャンブラーというべきか)御手洗を視界に入れるたびに値踏みを行なった。彼らの前で、御手洗暉の価値は時価で変動した。真経津の付け値は通用しない。
     たとえば村雨の中では未だに「標識男」で認識が止まっている。が、叶はつい先日、御手洗を「無害なヤツ」から「入国審査待ち」に昇格させた。といっても、安心できるわけではない。数日後には「見る価値ナシ」の烙印が押される可能性もある。
     下手をすれば、オークションで伊藤に落札された価格よりも──究極、1ヘッドの賭け金よりも高価なものを、真経津は惜しみなく御手洗に捧げている。彼女の友人らは、それを良しとしていなかった。実際に何かを言われたりされたりするわけではないが、部屋が軋むほどの無言の圧が、それを物語っていた。
    「真経津は何故あれに入れ込んでいるのか」という共通認識のもと、値付けが終わる。御手洗はそのたび、息を詰まらせながら「地下」での生活を思い出す。だから、真経津の友人たちに会うのは億劫だった。彼女は「御手洗くんもみんなと仲良くなってほしいな」などと無邪気にのたまうが、あの狂人たちと肩を並べられる自信も無く、到底そんな気分にはなれなかった。
     定職に就かない真経津は、いつだって暇を持て余している。彼女の空隙を埋めるのは、半分がギャンブル、四割が友人ら、残り一割が御手洗だ。真経津は気高い一匹狼のようでありながら「一人遊び」が苦手で、同じ特性を持つ集団での群れを好んでいた。どうしてか、真経津は一時は殺し合ったはずの相手をすぐに自分のテリトリーに迎え入れる。さながら、RPGの勇者がゆく先々でパーティメンバーをかき集めるようであった。
     勇者真経津ご一行は仲間意識が強く、御手洗のあずかり知らぬところで、お泊り会をしたりショッピングをしたり、とにかく時間さえあれば同じ空気を吸っている。天才の孤独は天才にしか埋められない。御手洗もそれは分かっていた。
     そのため、真経津の隣にはいつも友人ABCD誰かの姿があった。御手洗が真経津と二人きりになれるのは、担当行員としての業務連絡時か、せいぜい平日の深夜数時間くらいなものだった。
     はじめこそ、御手洗はそれでも満足していた。賭け場で美しく微笑む女神の姿を特等席で眺めることができる特権を手に入れた時点で、これ以上の幸福は無いと思っていた。だが、彼女の肌に触れ、奥深くに沈んだ瞬間、御手洗の欲は目覚めた。報われなくてもいいと思っていた感情に、口づけで応えてもらったとき、全身に滴り落ちるほどの快楽物質が分泌された。“知る”前には、戻れなかった。
     真経津の一番になりたい。真経津と対等でいられる怪物たちから彼女を引き剥がして、独り占めしたい。叶うならば、真経津にも同じ気持ちでいてほしい。
     仄暗い望みを照らす火を、御手洗は眺めていた。激しく燃え盛るその日を待っていた。

    「みたらいくーん、来ちゃった♡」
     突如として、御手洗に幸福が舞い込んだ。彼が叶の「いつめんでロシアンたこ焼き、最後の一人になるまで帰れません」配信を視聴しながら唇の血を舐めた夜から、ちょうど一週間経った頃だった。
     だいたい、やれ為替市場が閉じるだの、休日に執刀は行われないだの、スマートフォン一つあればいつでも仕事ができるだの、不定休の懺悔室だの、どいつもこいつもギャンブラーのくせに土日にきっちり休んで遊んでなんなんだ!
     投資家、医者、配信者、自由型神父。個性派揃いのわりに、案外カレンダー通り・ないしは個人の裁量で休日を選べる職業ときている。(つまり、御手洗も彼らと同様のスケジュールで生きているのだ)無職の真経津は、彼らの予定に合わせるだけ。それは確かに、叶いわくの「いつめん」にもなるだろう。
    ──それにしたって、一ヶ月に最低八日ほどある休日の全てを総取りしなくてもいいじゃないか。たまの一日くらい、あの人を譲ってくれてもいいじゃないか。
     御手洗は病んでいた。足の指のささくれを毟っては、深爪を深刻化させるように。セーターの毛玉を削っては、生地を傷ませるように。玉ねぎの皮を捲っては、実を小さくさせるように。引っ掛かりを少しずつ剥いていった彼の心は、とっくに中身がなくなって駄目になっていた。
     真経津晨に会いたい。ギャンブラーと担当行員としてではなく、恋人同士として。
     日曜昼、快晴。散歩にでも出かけたい気分だったが、外の空模様に反して御手洗の精神には大きな雲がかかっていた。こんな日は寝るしかない。寝て、平日に「業務」としてあの人に会うことで、少しでも満たされようじゃないか。
     その判断が功を奏した。祝福の鐘の音に似た、インターフォンのメロディが鳴り響いた。
     ドアスコープを覗き込んだ瞬間、御手洗は飛び退いた。背中と頭をフローリングに打ち付けたが、コンマ一秒で立ち上がる。扉の向こうには、真経津晨が立っていたのだ。
     鴨が葱を──否、女神が加護を背負ってやって来た!
    「来ちゃった♡」
    「逵溽オ梧エ・縺輔s縺i縺」縺励c縺!」
    「文字化けしてる!」
     髪も肌も整えず、部屋着そのままで真経津を家に迎え入れたのは、咄嗟の判断だった。彼女は熱しやすく冷めやすい。「ちょっと待っててください」なんて洗顔と着替えタイムをねだったなら、彼女は欠伸をしながら踵を返してしまうことだろう。
     これがまた、英断だった。馴染みのパン屋の紙袋を片手に、真経津が微笑む。フレグランスディフューザーなどといった気の利く代物は一切置いていない部屋だが、彼女が笑うだけで花が咲くようなにおいが立ち込めた。
    「叶さんが持ってきたゲームがさー、最大四人プレイらしいから、じゃあ御手洗くんのとこ行こうかなって」
     御手洗は、ツキというツキが自分に向いていることを確信した。
     これも、真経津の声が入り込む叶の配信に低評価を押さなかったこと、彼のアンチスレッドに書き込みを行わなかったことで、天が味方をしてくれたに違いない。嫉妬心の赴くままに愚行に走っていたならば、きっと今日、叶は十人以上でも対戦プレイが楽しめるゲームを持っていったはずだ。
     御手洗にとって、女神は真経津だが、この時ばかりは叶が神のように思えた。こんなことを言ったなら、きっと天堂は発狂するだろうが。
    「……御手洗くん?ボクの話聞いてる?」
    「まさか、僕があなたの言葉を聞き逃すなんてありえません。一言一句魂に刻ませてもらってます」
    「そう?なーんか妙な顔してるから、迷惑なのかなって、」
    「迷惑だなんて!真経津さんが僕の家にいらっしゃるなら風呂に入っていようがトイレに入っていようが餓死直前の食事時だろうが二十徹明けの休日だろうが構いませんよ!?」
     食い気味に唾を飛ばす御手洗を見ても、真経津は喜んだりしない。「そうなんだありがとう」と微笑むのみである。彼女は、御手洗が自分を慕い、何よりも優先すること当然に思っている。
     真経津晨の隣に立つために、命を賭けることすら厭わない男。それは、村雨や獅子神が間に介入したって揺るがない、誰もが認める絶対評価だった。
    「目の下、ちょっとだけ黒いね。寝てない?」
    「寝てなくはないんですが、その……」
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