俺は三年ほど前から衛尉として後宮の門を守っている。
この歳にしてはなかなかの出世頭だと思う。女にも酒にも目もくれず鍛練に励んだ努力の賜物だ。だというのに。
「はぁ……」
夕暮れに染まる路を眺め、大きなため息をこぼす。
「ははっ、今日も芍薬の君は現れなかったな」
共に門番を務める相方が、こらえきれないと言うように肩を震わせた。
そう、そんな仕事一辺倒だった俺にも春風が吹いたのだ。
想いを寄せる名も知らぬ麗人、「芍薬の君」は数日前に後宮を訪れた皇太子に付き添っていた女官である。
サラサラと艶やかな白髪に透き通るような白磁の肌、長い睫に縁取られた瞳は容姿からくる儚さとは反して理知的で強かな光を宿しており。月のような凛とした佇まいを花弁のような薄紅色の衣が彩っていた。
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