ヤタ兄(仮)4あれから悠仁は、週末や夜寝るまでの短い間の時間、足繁く脹相の元に通うようになった。
風呂を済ませおやつとレンタルのDVDをたくさん持って脹相の元へ訪れる。明日は休みで今日はお泊まり会といった体だ。

明かりが灯るログハウスのドアをノックするとスウェット姿で髪を下ろした脹相が出迎えてくれた。

「そういうの着るんだ？」
「現代風に合わせてみた」
「キッチンとかベッドも合わせてるってこと？」
「この間まで竈だったんだ、現代風の方が便利だな」

脹相がクスリと微笑んで指差す方向には液晶のテレビがあった。先日までこの家には無かったものだ。一緒に映画を観るなら用意しておく、と約束した通り脹相は大きなベッドの前に40インチほど液晶テレビとのテレビ台がきちんとセッティングされてある。プレイヤー付きだ。

「こういうのどっから持ってくんの？」
「借りてる」
「電気とかも？」

脹相がウンウンと頷く。多分何処から、と聞いても答理解出来ない答えが返ってきそうだ。
では、始めますか、悠仁がベッドに菓子を広げ脹相は飲み物を用意する。借りてきたDVDも広げ何を再生するか二人して悩み出す。

「どれが観てえ？てか映画なんて楽しめんの？」
「悠仁と一緒だから楽しい」

お前ね、と照れながら顔を上げると思っていたより脹相の顔が近くにあった。白い肌に掛かる不自然なほど真っ黒な髪が人間離れしている。悠仁の瞳を覗き込みながらゆっくりと瞬きをする仕草は動物が親愛を示す仕草に似ている。
彼の唇に視線を送り顔を近付けると、長い人差し指が悠仁の唇を抑え、待てをした。
脹相は深呼吸をしてから悠仁に自ら口付ける。それは触れるだけのフレンチ・キスで、会う度に何度か交わしていたものだったが、一番最初に悠仁から仕掛けた後、脹相は酷く怯えてしばらく抱き締めて宥めていたのだ。嫌だったのか？と聞くと首を横に振るので、キスの意味も行為自体も拒むつもりないようだと分かる。「心の準備が要る、次からは俺からさせてくれ」そう震えながら言うので、初なんだな可愛いなと感じていたが回数を重ねる毎に流石に何か違うようだと悠仁は勘ぐり始める。
今もキスを終えるとぐったりと悠仁にもたれかかって震える手で悠仁の寝間着をぎゅう、と握り締めていた。そんな彼の体を抱き締め摩ってやりながら悠仁はゆっくり囁く。

「なあ、なんか怖いことがあるのか？前言ってた烏が死ぬとか、そういう……」
「……悠仁に、心や身体を明け渡す度、烏が落ちる音がする……俺にだけ聞こえる……誓いを破っているから……」

ぎゅう、と心臓を掴まれた心地がした。仲間が死にゆくそんな恐ろしい音と引き換えに、脹相は悠仁に気持ちを伝えてくれているのだ。
悠仁は少し考えた後、震える顔をそっと両手で包んで自分の方を向かせると包んだ両手でそのまま脹相の耳を塞いだ。はく、と唇に吸い付き下唇を舐めると脹相も唇を開いて悠仁の舌を迎え入れてくれた。隙間なく口を覆い派手な水音を立てながらくちゅくちゅと舌を絡める。脹相からすると耳を塞がれている為、自身の中で絖った音だけが木霊して目を閉じると舌先で悠仁の存在だけを感じることが出来た。

「ん、……ふ、んぅ……」

ざりざりと口内を擦られると甘えたような鼻声が漏れる。こくこくとどちらのものか分からない溢れる唾液を飲み込んで最後、じゅうっと卑猥な音を立てて舌と唇が離れた。
悠仁の手がそっと耳から離れ、同胞が死ぬ行く音を聞かせまいとしてくれたのだと理解した。

「……聞こえんかった？」

体がふわふわする。気持ちよかっのだ、と遅れて実感が伴った脹相がほう、と息をつきながら無言で頷いた。
音が聞こえなかったからと言って、烏が死なない訳ではない。その事実に頭の何処かがすう、冷えていくと同時に脹相は胸がいっぱいになった。悠仁の肩に目元を押し付けてきゅっと指同士を絡めて手を握る。早く全て悠仁のモノになってしまいたい、と思う自分自身にも苛まれながら、しばらくそうしていた。