体温日が上り沈むのを何回見たことだろう。
十代目はいつもお忙しい。大盛りの書類を裁く手はたまに切れることもあるくらい、仕事が多くて、多くて。その他にも会合という人と会う仕事もして、護衛の山本と一緒に向かうパーティもある。九代目に呼ばれてイタリアへ行くことも。
時に執務室で1人になる瞬間がある。たまに手が空いていて休憩をする十代目。
顔に一つ光がちらついて下に顔を向けられた。
「はやと…どこにいるの?」
そうボソッと言われるこの言葉は、何度もあった。
隼人という人はずっとそばにいてくれた大切な人だと話します。十代目は目に水を溜めて落ちる前に目をぱちくりして目の中に収める。
水が下に落ちたら止まらなくなると言われます。
「隼人…俺が悪かったよ。ごめんなさい…。許さなくてもいいから、どうか無事でいて欲しい」
十代目の元に隼人が任務後の報告をする日がなくなって、姿が見えなくなった時です。
私は気づきました。
その後数日すぎてくにつれ、十代目は笑わなくなっていき、ただただ隼人どこにいるの?と囁くのでした。
「隼人、俺のこと嫌いになったのかな」
そんなこと絶対にありません。
「喧嘩して、このまま会えなくなるなんて、思ってもみなかった…すぐ謝ればよかった」
些細な喧嘩。押し寄せる後悔。
十代目はまた目に水を溜めている。
もう何回目のことだろう。
「隼人、俺が十代目になってなかったら、こんなことにならずに幸せだったのかな?」
十代目、絶対にそんなことはないです。
だって私が貴方に贈られたということは、隼人が貴方を永遠に愛しているという証明なのだから。貴方と会えたことがなによりも幸せであるということだから。
「ううん。そうだよね。山本やお兄さんの部下たちにも捜索をずっとお願いしてるし。隼人1人で寂しいはずだから、うん。元気だそう」
ふふ、そうです十代目。
きっと隼人は帰ってきます。
貴方が信じているかぎり、きっとほけっと帰ってきますよ。
どどーんと廊下から大きな音が聞こえる。
それは慌ただしくパラパラと鳴る靴の音、その時十代目は下に向いたままの顔を正面に向ける。
「このおと、まさか」
その時ドアが大きく開き、近くで鳴る。
するとそこには黒いスーツを着た男。
「十代目!!獄寺隼人、ただいま戻りました!!!」
それは懐かしい声、息を必死になりつつ言葉を発するすこし癖っ毛が目立つ男。
十代目の顔が見えません。ただまっすぐ声のする方へ見ている。
「すいません!すいません!一年と6ヶ月すいませんでした!連絡すればこちらに敵が回ってきてしまうと思いまして、連絡をしないことを判断しちまいました!どうか罰してください!!!……て、十代目??」
十代目から大きな粒の雨が降ってくる。
いつもと違う波のある声で言う。
「はやと…おれ、もう会えないとおもっちゃった、ごめん、ごめんなさい…」
「そういう考えは貴方の悪い癖ですよ十代目。貴方を置いて俺は消えたりしませんと言いましたでしょ?。」
2人は近づき優しい肌触りのスーツが一つになる。十代目は頬を隼人の肩に乗せて、幸せを顔に浮かべている。
私はだんだんと温かくなる十代目の体温から、それが伝わるのでした。
光によって輝きを弾き、人の体温で温められたその指輪は、幸せの証であり愛を刻んだ2人の永遠を誓い、そして運命にするためにここに生まれていると、私は思うのでした。