文具沼住人な大倶利伽羅くんと本の虫な鶴丸さん② 大倶利伽羅は主曰く、「文具沼の住人」である。鶴丸としてはいまいちよくわからないが、とにかく文具が好きで好きでたまらない者のことをそういうそうだ。対して鶴丸は、「本の虫」と呼ばれる。暇さえあれば部屋に積んだ本を読み耽り、一日を過ごすのだ。本の中は身近な驚きがたくさん詰まっている。
なにか本を貸してくれ。
大倶利伽羅がそう頼んでくるのは、そう珍しいことではない。特に新しいペンやインクを買ったときなど、その書き心地を試すため短歌や詩などの短い文章を書いてみたりするのだ。そういうとき、鶴丸は似合いの本を選ぶのが好きだった。
大倶利伽羅が今回買ってきたのは、夕焼けの空を思わせるガラスペンだった。軸は短く丸みを帯びていて、大倶利伽羅にしては可愛らしさを感じる一品である。
ふむ、と鶴丸は顎に手を当ててどれがいいかなと記憶を掘り起こした。
夕焼け色のペンなので、日が沈みきった空色の本にしよう。タイトルは金の箔押しで、月夜を思わせる。海外の詩集である。鶴丸は読み返したことが一度しかないので、どういうものが載っていたかまでは覚えていなかった。
大倶利伽羅の文字は、丁寧だ。逆に丁寧すぎて、癖がなく、面白みがない。正直にそう告げたこともある。
きみは本当に、書き連ねているだけなんだなあ。たとえばこの詩、これがどういう感情で書かれたものかなんて、まったく意識していないんだろう。
それはあんたもだろう、とうんざりした顔で大倶利伽羅は言う。
あんたは驚きを求めるだけで作者の気持ちなど求めていない。
どっちもどっち、ああ言えばこう言う。
とはいえ険悪な雰囲気になることはないのは、付き合いが長いからである。こういったやりとりは心地よくさえあった。
大倶利伽羅は紙の類もこよなく愛していたが(これもまた、手作りの棚にぎっしりと入っている)、自分が文字を書いたあとの物はあまり頓着しないようであった。なので、大倶利伽羅が紙の端切れなどへなにかを書いたとき、鶴丸はそれをもらうことがある。本人が不要ならば別にいいだろう。
端切れを使うのは大抵試し書きのようなもので、まだペンに慣れていないからか、いつもは丁寧な文字も少しばかり歪んでいたり紙に引っかかったりしている。鶴丸はなんとなく、それを切り取って、ノートに貼っているのだ。
楽しいか、と大倶利伽羅が問う。
楽しいとも、と鶴丸は笑って答える。
いつもの丁寧なばかりのものより、味があって、実にいい。
本の虫である鶴丸が所有する本を本丸の刀剣男士が借りにくることはたびたびあったが、鶴丸手製の詩集だけは本棚に並ばずに、ひっそりと文机の引き出しに仕舞われている。それを知っているのは、大倶利伽羅だけである。