夜明け前は密やかに「だって、おれの方が先に死んじゃうからさ」
ぽろりと漏れた本音だった。八つ年下の恋人は言っている意味を理解できないと言った顔で、ぽかんと口を開けていた。言葉を咀嚼するようにゆっくり瞬きをすると、目の端からひとつ、滴が落ちていった。
あーあ、またやっちゃったな。その涙を見てするのは何度目かの後悔だ。
おれたちが出会ったのは恋人────カラ松が、まだ初々しい高校一年生の頃だった。場所は学校。保健室。一目惚れしたのだと、怪我をして運ばれた次の日にはお小遣いで買ったらしい薔薇を一輪持って告白してきた。
当然、教職についていたおれは「無理」の一言で押し通した。
教え子で、男同士で、年の差があって。おれたちが恋人として成り立つ前に立ち塞がったハードルはいくつもあり、その一つ一つがとても大きいものだった。わざわざそんな面倒なハードルを超えてまで恋人同士になりたいなんてこれっぽっちも思わなかった。
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