朝寝 なんだかんだの一晩が明け、眠ったような眠っていないようなわずか一瞬の微睡みから目を覚ます。だがこの時間を一瞬だと思っていたのはおれ一人だけだったようで、日はとっくに真上へと上がっている。縁側から伸びる影の短さでそれがわかる。背を向けて座っている。そんなに面白いものが、その視線の先にあるのだろうか。おにゃ、いつもの通りの庭先しか見えないが。
目覚めてそのまま、身じろぎもせずにその背中と影を観察する。それこそそう面白いものでもない。まったく見慣れただけの背中だ。おれが起きたというのに気付きもしない。気付いていても、振り返らない。そういう薄情な素振りをする野郎だ。おそらくそれが硬派だなんだと思っている、時代遅れの野郎なのだ。
で、おれの方は、そんなこいつの素振りには、もう慣れたものだ。
どうするかって? 好きにするだけ、それだけだ。
背中も見飽きた。昼間の日差しはいつもの陰気なこいつの座敷を薄ら明るく照らしている。要するにいい塩梅だ。それに出ていけとも言われていない。
寝返り打って、今度は天井を眺める。しかし振り向かない背中以上につまらない。天井板の年輪が昨日までよりも増えているなんてことも起こり得ない。分かり切っている、で――つまり目でも閉じて、昼寝をするに限る。根比べだ。代わり映えのない庭先を無為に見つめ続けるよりは、夢でも見ていた方が有意義だろうからな。
「大ガマよ、お主ちと朝寝が過ぎるのではないか」
先に焦れて声をかけた方が負けだ。そうだあんたの負けだ。と、一瞬の微睡みから目を覚ます。おれはそう長く昼寝してたわけじゃないだろう、影の長さを見て測れば――わからねぇか。庭を眺めていたはずの背中がもうない。おれの顔を覗き込んでいる。
愉快な夢でも見たような気分だ。おれはそれで笑っているが、待たされたあんたは顰めっ面だ。
「早起きしておれと遊びたかったのか?」
【了】