古来からブルーベリー学園にあるテラリウムドーム、その一角であり最も厳しい環境を整えられている雪原、ポーラエリア。
少し用事があり、相棒のコライドンにライドして飛び込んだ僕ハルトは、大きく息を吐き出した。寒さによってそれは白み、緩い風に吹かれて消えて行く。
「いつ来ても寒いよねえ、コライドン」
「アギャア……」
「そうだね、寒いの苦手だもんね。いつもありがとう、ごめんね」
でももう少し、もう少しで着くから頑張って。そう撫でると、愛しい相方は頷いてくれた。この子は何処までも僕を信じてついて来てくれる、心の友だ。勿論他の手持ちポケモン達も、だけど。……あの人がドラゴンを愛する気持ちが、コライドンと居ると分かるような気がする。
僕は何故か寒暑どちらにも耐性があるので、ちょっと凍えるなあくらいの感覚で再びコライドンを走らせた。怒られるので流石に手袋だとか上着だとか最低限の装備は整えてるけど。正直動くと暑いくらいだから脱ぎたい。あの人の薄着に最初はかなり仰天したけれど、よく考えなくとも僕も中々大概である。
「って、さっきからツバっさんのことばっか考えてるなあ」
ふと気付いて恥ずかしくなる。でも一回思い浮かべると頭から離れない。
それに、まあ、今は彼に会おうとポーラエリアのスクエアまで向かっているのだから、自然と言えば自然だ。
あの怠惰でちゃらんぽらんで本心の読めない、三留男。カキツバタという顔とポケモン勝負が強い先輩。僕が「ツバっさん」と呼び慕う彼。を、今探している。
理由は、うん、ふと話そうと思った瞬間に限ってリーグ部部室に居ないものだから、マトモに辿れない足取りを追った結果なんだけど。だからポーラスクエアまで向かってるんだけど。
そもそも『話』というのも聞かれていいのか疑問なところだったので、むしろ助かったくらいだった。だから僕は不満無く、とにかく日が暮れる前に捕まえなくてはと飛ばしていた。
「ちゃんと正直に話すかなあ、アレが」
最初は良いように利用されたとはいえ、信用信頼の関係はそれなりに築いた、と思いたい。
でもあの人って、大好きな仲間だろうが血の繋がった身内だろうが不都合なことがあると簡単に逃げて躱す人っぽいしなあ……
なんて不安になっているうちに、不思議なブロックで出来たポーラスクエアに辿り着いた。ブルーベリー学園はドーム自体を含めて技術力がいちいち凄い。シンクロマシンとか、道具プリンターとかも。もうここの科学力で地方一つくらい軽く制圧出来るのでは?と偶に思う。
「すみませーん、こんにちはー!」
「あ、チャンピオン!」
世界征服とか子供染みたふざけた妄想は置いといて。
僕はコライドンから降り、スクエアを管理している職員さんに話しかけた。元チャンピオン二人と違って僕はお利口に振る舞っていた為、突然現れても怪訝そうにはされず安心して用件を伝えた。
「実は、ツバっさん……カキツバタ先輩を探してて。ここに来たりしてますか?」
「四天王のカキツバタさんでしたら、先程あちらでお休みになると」
「要はサボりだぜー!」
尋ねたら、あっさりとここからでも見える高台を指差された。ついでに聞き耳を立てていたらしいリーグ部員の生徒が野次を飛ばした。
成る程、いつも通り、いつものお気に入りの場所で休んでいると。それならまだ居る可能性の方が高そうだし、分かりやすい。
「ありがとうございます。ちょっと行ってみます」
「彼にご用ですか?後になさった方が……」
「え?」
「カキツバタは寝起きが悪いんだ。機嫌とかそういうのじゃなくて、シンプルに起きない」
そうだっけ?確かに部室で寝てる時も中々反応しない……が、不都合が去ると寝たフリを疑うくらい一瞬で起きる印象だったけど。
そう言ったら、確かシモンと言うツバっさんを慕う三年生が説明してくれた。
「カキツバタは基本的に人前で眠らない。部室で直ぐに起きるのは当たり前だ」
「つまり」
「疑いは正解、大体いつも寝たフリだ。そうでなくとも半分起きている」
あの男……タロちゃんが知ったら激怒するな。いつもそうってことは、会議や授業でもそんな調子と考えられる。
シモンさんや他ポーラを縄張りとする生徒達は、それでも彼女や他の面々には黙ってるみたいで。……だからこそ、かもしれないけど。ツバっさん愛されてるなあ。
「ただ、一人の時はそれはもう深く眠る」
「爆睡です」
「今も熟睡する為にサボり場に行ってるってことですか?そんなわざわざ……ていうかポーラで寝たら死んじゃいません?」
「カキツバタにはドラゴンが居るからな。問題無いらしい」
そうじゃなくて。問題ありまくりでは?
まあでも、兎にも角にも、彼らが何故止めるのかはぼんやり察した。
「つまり先輩への安眠妨害を先手で止めたいってことですね?」
「その通り」
「認めちゃったよシモンさん」
「流石はカキツバタ先輩ガチ勢」
「厄介ファン」
「俺らはそうじゃなくて。本当に全然起きないから、結局無駄足だよってこと」
「そもそもカキツバタくんの手持ちがガードしてて近寄れないだろうし」
うーん、困った。僕よりあの人との付き合いが長い皆さんが仰るならそうなのだろう。
それに寝てるところをお邪魔するのは気が引ける。いつもポーカーフェイスで態度ものらりくらりしているが、彼も人間だ。もしかしたら疲れたりして……アレが疲れるようなことするかな……
浮かんだ違う疑問については、『まあ家庭環境とか複雑そうだし暗躍するタイプだし、してる可能性もあるか』と納得しておいた。
疲れてるなら寝かせてあげたい。でも、なんというか、なんとなく今を逃したら訊けず仕舞いになる気がする。ただの直感だけど。
「とりあえず行くだけ行こうかな……」
「話聞いてた?」
「カキツバタを起こさせるまでもない!!掛かってこいチャンピオン!!」
「シモンさん、落ち着いて。ボール構えないで」
本当にダメそうだったらそっとしておく。単なるサボりだったら起こす。もし彼の手持ちに絡まれたら、まあ、その時はその時だ。
主人公やらチャンピオンやら言われるが、結局マイペースで自分本位なただの子供なので、僕は爽やかに笑って見せた。
「情報ありがとうございました!皆さんまたそのうちバトルしてくださいね!」
「どういたしましてー」
「チャンピオンからのドラゴンエールが沁みるなあ」
「ハルトは現チャンピオンだがドラゴンではない」
「はいはい分かったよ」
ボールでちょっとだけ休んで少し元気になったコライドンに跨り、この地で手に入れた"ひこう"の技で飛び立った。
遠のくスクエアでは何人かが手を振り続けてくれており、僕はちょっと嬉しくなる。バトル強豪校なのでピリピリしていることも多いが、その実皆ちゃんと良い人だ。
……シモンさんは強火だけど。まあツバっさんって人気あるからなあ。
彼らの姿が見えなくなった頃には、ツバっさんが居ると告げられた高台は間近だった。あまり距離が無くて助かったな。
「ツバっさーん?」
と、身を乗り出して空中から声を掛けた瞬間。
付近を浮遊していた緑色とオレンジの影が一気に迫ってきた。
「あ、フライゴン!カイリュー!やっほー」
二匹は当然、ツバっさんの手持ち。
警戒心バリバリでとんでもない形相をしていた彼と彼女は、一秒も経たずに『なんだお前らか』と溜め息を吐く。
コライドンが怯えてこそなかったがめちゃくちゃビックリしてた。なので、僕はそっとさすって宥める。
「驚かせてごめんね。ツバっさんを探しに来たんだ」
サボりを咎めに?なんて言わんばかりに首を捻られるから、否定した。
「今更だけどさ。あの時、なんでエリアゼロに来なかったのか聞きたくて」
本当に面倒なだけだったのか、部の立て直しを行っていたのか、それとも別に理由があったのか。
ブライア先生や友人姉弟はあまり関心が無いようだが、僕はずっと気になってたんだ。
それと、
「折角だから、パラドックスポケモンも見てみて欲しくて。実はドラゴンタイプも居るから、きっと皆も気に入るよ!」
ツバっさんがオモダカさんにスカウトされているところは既にバッチリ目撃してしまった。それにエリアゼロ探索チームの候補に挙がってたくらいだから、そのうちまたあの地へ赴く機会が与えられるかもしれない。
そうなった場合行くか行かないかは本人次第だ。スカウトもまた然り。
とはいえ、今学園で一番エリアゼロに近づく可能性が高いのはどう考えても彼なのも事実。知識を仕入れておいて損は無いと思う。
「なによりも、パラドックスポケモン達もツバっさんとキミ達となら楽しくバトル出来ると思うんだ」
だから紹介させて欲しい。
懇願したところ、ドラゴン達は顔を見合わせて暫し悩んで。
やがて道を空けて、ツバっさんの元へ導いてくれた。
「ありがとう」
なんだかんだライバルという意識は彼らにもあってくれてるのかも。嬉しくて、目的地に着くと皆を順に撫でた。
さて。着地して直ぐに見えてたけど。
示された高台では、確かにあの白髪が横たわって目を伏せていた。
「……ツバっさーん、どーもー」
なんだかドッキリをしてる気分だったが。これ本当に大丈夫なの?軽く死にそうだけど?
雪の中ではなく氷の上に転がってるから、普通に背中も痛そうだ。枕も使わないでマントを掛け布団代わりにしている先輩は、それでも本当に熟睡しているようで穏やかな顔と呼吸だった。
「寝顔レアだなあ」
いつも机に突っ伏する形だったから初めて見た、と呟く。
僕が来たことにより周辺の警戒から戻ったらしい。ツバっさんの手持ち達がぞろぞろ集まってくる。ちょっと窮屈だ。
「キミ達のご主人っていつもここで寝てるの?」
零せば、返ってくるのは肯定。
「揺さぶっても起きない感じ?」
こちらも肯定。
「……音とかで起こしていい?」
否定。起こして欲しくないのか。まあ大事な主人だろうしそりゃそうだ。
仕方ないので構えていた両手を下ろして、ツバっさんの傍に腰を下ろす。コライドンが僕の隣でペタリと伏せた。こおりが弱点で苦手なのにボールに戻る気は無いらしい。なんでかな、と考えて……多分お腹が空いてるだけだなと思い至った。
「んー、でもサンドウィッチ作るスペース無いし……あ、ペパーから持たされたお弁当ならあったかな」
「アギャ!ギャス!!」
サンドウィッチ、ペパーという単語を聞いた途端に相棒ははしゃぐ。余程腹ペコだったっぽい。
「んん………」
「あ」
そしてその大声が届いてしまったようで、ツバっさんが眉間に皺を寄せて唸った。
「うーー…………」
無防備にもゴロゴロ寝返りを打って起きるのを嫌がる。なんか孵化したての赤ちゃんポケモンみたいで可愛い。……口に出したら主に周囲のドラゴン達に捻られそうなので黙ってるけど。
「ア!!ギャ!!ス!!」
「ああ、そうだねお弁当だね」
「うーん……だれ………」
コライドンは構わず叫んで催促する。
結果、先輩は薄目を開いてこちらを見てしまった。
僕と彼の目が合う。
「あ、どうも」
「………………、…………!?お、おお、キョーダイ……!?」
あっという間に目が冴えた様子だ。細い身体が飛び起きて、目を白黒させながら僕とコライドンを交互に見る。
「ええ、なんでここに?」
「ちょっと訊きたいことがあって。スクエアに行ったら皆さん快く教えてくれましたよ」
「……タロには、」
「大丈夫です。サボってるのを叱りに来たわけでもないですし、お昼寝場所を奪ったりしませんよ」
「そーですかぃ」
誰にも言わないから安心して欲しい、と笑えば、親友は頭を掻く。撫で付けられた白髪が少し乱れた。
「で?訊きたいことってなに?」
「あ、待ってください。コライドンにご飯あげてから」
「なんだ、お腹空いてんのか。オイラのお菓子も食う?」
「食べかけじゃないならあげてください」
「流石に違えよお」
僕は本題に入る前にサンドウィッチを取り出し、半分に千切って相棒に渡した。ご機嫌に一口で食べてしまう姿は可愛い。なんとなくぼんやりと、初めて会ったあの日あの瞬間を思い出した。
「ツバっさんも食べます?」
「いやあいいわ。寝起きにそいつはちと重てえ」
「そっか」
差し出せば普通に要らないと言われて、僕は大人しく引き下がる。正直貴方は細過ぎるから食べて欲しかったんですけど。嫌ですか、そうですか。
食いしん坊なコライドンはツバっさんのお菓子も平らげて、間も無く丸まって寝てしまった。いつも食べて直ぐ寝るんだよなこの子。まあお昼寝好きだもんね。
「じゃあ訊きますけど」
「おお、なんですかぃ」
僕は意識を切り替え、先輩に問い掛けた。
「なんであの時……エリアゼロに来なかったんですか?」
「なんでって、え、今更?」
「今更ですけど」
質問の内容に意外そうにされた。あの日からそれなりの時間が経っているので、無理もないけど。
どうしても気になって気になって、ふと本人に直接とやる気が出てしまったのだからしょうがない。動くべきだと思ったら黙っていられないサガってやつだ。
問題の本人は、「えー」なんて苦笑いする。
「とは言ってもよ。ゼイユに見抜かれた通りだぜぃ?面倒くさかっただけ」
「面倒だったら後輩が危険な場所に行くのも大人しく見送るんですか?」
「お……おぉ、言うねぃ……」
トゲを刺せば驚かれた。あんまりこんなこと言わないからその反応は普通だ。
だけど、僕は皆が思うほど温厚でも優しくもない。
「一緒に過ごして、あと一連の出来事思い返して分かったんですけど。ツバっさんって結構リーグ部と皆のこと大好きですよね」
「いや、嫌いとは言わねえが……」
「そんな大好きで大切な仲間がエリアゼロに赴くならついてくるものじゃないですか?本当にゴタゴタの整理も必要だったんでしょうけど、なんだか……あの時の判断は、貴方らしくないというか」
「んー」
「どうせまた思惑があったんでしょう。誰にもバラさないしなに言われても僕は怒らないので、白状してください」
「…………………………うーん」
僕のしつこさしぶとさを彼はよく知っている。おまけに今はサボり場という人質も居た。
ここで黙秘するのは得策ではないと気付いたのだろう。彼は深い深い溜め息の後、開口した。
「別にハルトが思うほど大層な理由じゃねえよ。……オイラは必要無いな、って思っただけ」
「必要無い?」
「そ。むしろ邪魔っていうか?ほら、あん時スグリは荒れてたし、オイラとの関係もあんな感じだったろぃ?全然接触が無かったブライア先生はともかく、オイラがついて行っても……なにもかも掻き乱すだけだと思った」
ああいうのは連携が大事だろぃ?なんて彼は寂しそうに笑う。
うん、まあ、尤もだ。作戦にチームワークが問われたのも、スグリとツバっさんの仲が最悪だったのも、……もしそこに居れば助けどころか妨害になった可能性の高いシーンが幾つかあったのも、正直否定出来ない。
でも、あの段階でそんなところまで見越して予測してたのか、この人は。大人であるブライア先生でさえあんなに滅茶苦茶な行動ばかりだったのに。
「正直なとこちゃんと心配だったぜ?そもそも危険だっつーのに子供ばっかでチーム編成すんのも意味分かんねえし。テラパゴスにもちょっとは興味あったさ」
「……でも、来なかった。他でも無い僕達の為に」
「お前さんらの為っていうか、ただ臆病だっただけよ」
ニコッと笑みを向けられて、なんだか申し訳ないようなホッとしてるような。
きっとこの人は何処までもお人好しなのだ。スグリの件だって、ただリーグ部を元に戻したいだけなら僕を使わずとも真正面から向き合わずとも方法は沢山あった筈だ。こんな狡賢い人がそれに気付かないわけもない。
加えてエリアゼロの件。共に足を運ばなかった理由。……あの場で聞いた時、「この人はどれだけ怠惰なのか」と一瞬でも軽蔑しかけた自分が恥ずかしかった。
僕の考えていることに気付いたのか、ツバっさんは僕の頭に手を載せる。
「せんぱ、」
そしてぐわんぐわんと揺さぶってきた。
「うわあっああ!?ちょっ、目回っ、やめ」
「あーんま気負うなよおチャンピオン!なんもかんも"今更"だろぃ!?」
「いやっでも!!」
「まーまー辛気臭い感じは止せやい!大体全部結果論だし?オイラがお前さんらを見送ったのも事実だし?キョーダイはなーんも悪くねえさ」
暫く頭を揺らされ、こんらんしながら不服を示す。
それでもツバっさんの調子は変わらなかった。
「いーんだよ。誤解されようが軽蔑されようが、オイラはなーんも気にしないからねぃ!キョーダイは自分を悪者にし過ぎなんだよ!」
…………どの口が。一番悪者として振る舞っていたのはそっちだろう。
唇を噛んだら本人は首を捻り、彼のポケモン達がやれやれと溜め息を吐いた。
「まあ、疑問は解消されました。ありがとうございます」
「スゲー不満そうだけどどういたしましてー」
へらへら肩を組むちゃらんぽらんは、本当になんとも思ってなさそうで。
これは手持ちも苦労するな、と同情した。
「で?用事ってそれだけ?」
「ああ、まだあって。見せたい子達が」
ともあれ一つ目の用件は済んだので、持っていたモンスターボールを掴み放り投げた。
中からパラドックスポケモン……イダイナキバ、サケブシッポ、アラブルタケ、ハバタクカミ、チヲハウハネ、スナノケガワが飛び出す。
「おー、コイツらは?」
「エリアゼロで見つかったポケモンです。パラドックスポケモンって言って、まあ、過去のポケモンというか」
「へえー、そいつぁ凄えや」
僕やペパー達友人によって大分人慣れしていた皆は、ツバっさんと彼の手持ちに興味津々で。
手を伸ばされると、匂いを嗅いだり様子を窺ったりする。
「よく見るポケモンと似た姿だな。大昔はこんな姿だったってことかぃ」
「ドラゴンも居ますよ?見ます?」
「見たい」
トドロクツキも出して見せたら、先輩は食い付いた。まじまじと見つめては許可が下りると触り、撫でて、僕に技構成まで確認してくる。
「コライドンといいコイツらといい、キョーダイは色んなポケモンに触れてきたんだねぃ」
「大体成り行きですけどね。僕もパルデアに来たばかりの時は、まさかこんな大冒険するとは思いませんでした」
「そりゃあ大変だったなあ」
「………………」
褒めるでもなく、羨むでもなく、ただ労ってくる彼の言葉に少し救われる。僕じゃなくてポケモンの為に来たのに。
この人は本当にさあ…………
「あんまり表に出さない方がいいかなって、バトルさせることは少ないんですけど……よかったら今度この子達と戦って欲しいんです」
「オイラでいいの?スグリとかの方が……」
「いいんです。ツバっさんがいいの!スグリ達ともそのうちやれたらいいなとは思ってるけど」
ペパー達三人以外ならツバっさんが適任だから。
「嫌ですか?」
わざとらしく落ち込んだフリをして頼み込む。
多分騙されてなんてくれてない彼は、僕の髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜた。
「嫌だなんて言ってねえよ。楽しそうだし、勿論大歓迎だぜぃ!なあ?」
場に居るポケモン皆が同意した。コライドンは寝てたので同意というか寝言だったが。
元気のいい返事に、つい口角が緩む。
「じゃあ約束です!まだ育成終わってないので直ぐにとは言いませんが、絶対バトルしてくださいね!」
「へっへー。……期待裏切ったら泣いちゃうからな?」
約束を交わして、僕は大いに満足した。
目的は全て終わったので、「じゃあお昼寝の続きどうぞ!」と仲間を戻してコライドンを起こし、「お言葉に甘えて〜」と欠伸しながら手を振る先輩と別れたのだった。
その一週間後。しっかりバトルをした僕達は、きっと今までで一番楽しく戦い、自分の感情をぶつけ合った。それだけであの会話は無駄ではなかったと、大きな自信を持てた。