「ご指名ありがウェーイ!」
「していない……です」
酒場に蔓延る喧騒の中でも、いっそう喧しい声が響き渡り、賢者は頭を抱える。色々な成り行きと流れでこの小煩い男と飲む羽目になっただけだ。
「またまたー! オレィの舞でズキューンってなっちゃったっしょー!」
「チッ……名誉毀損だ……です」
今すぐ屯所に駆け込みたいが、外見だけで判断するならどう見ても駆け込んだ本人の方が罪人扱いされかねないので、青年は諦めて運ばれてきた蜂蜜酒を煽る。
「俺はただ……男の踊手は珍しいと思っただけだ……です」
「ダヨネー! 本当は化粧番だったんだけどねー。オレィってばモテモテだから、ステージにも上がってみないかって誘われちゃったんだー!」
聞いてもいない事を勝手に喋る。只管明るく騒がしく迷惑な青年である。
だが、青年の目には、それも一つの舞のように映る。
「それはお前の本懐か?」
「……へ」
男は、真実を突き詰める。誰に求められずとも。その眼を持って、生まれてしまったから。
「俺には、お前が好き好んで労しているようには見えないが……です」
「……」
指摘を受けた青年は、少しの間、瞳を丸めた後に、真面目な表情を作る。
「冒険者を雇いたいんだ」
「……ほう」
「なるべく強い人。だからお金が必要」
「それは、何故だ? ……です」
「助けたい人が居る」
言葉を吐き出した青年の手元は、静かに戦慄いていた。
「本当は今すぐにでも行きたいよ。でも、オレィ一人じゃ同じ轍を踏む。そんなの嫌だ」
普段の軽薄な態度が嘘のように、琥珀色の瞳が、絶対的な意志を湛えている。
「オレィは、その為なら何でもしてやる」