Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    nekotakkru

    @nekotakkru
    もしものための保管場所。好きなものを書いていきたい

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    nekotakkru

    ☆quiet follow

    pixivより移動中

    『どうか貴女にも祝福がありますように』私の住んでいる街はよく言えば穏やか、悪く言えば地味で毎日を平和に過ごしている。それでもこの時期だけは普段と違ってちょっとした賑やかさがあった。それもそのはず、今日は私たちにとって大切なお祭りがある。お祭りを成功させようと笑顔で準備をする大人達、待ちきれなくて目をキラキラさせてる女の子に男の子。本来なら私もその子達と同じように目を輝かせるんだけど、今日だけは違ってた。すんっと啜った鼻が痛いのは風が冷たいだけじゃない、私は涙の跡がひどい顔を誰にも見られないようにうつむきながら歩いていた。


    私はあんまり人と話すのが得意じゃない。そのせいか友達と呼べるような子はおらず、いつもひとりで遊んでる。寂しくない、と言えば嘘になるけど私は平気だった。だって私にはお兄ちゃんがいるから。いつでも手を引いて遊びにつれて行ってくれるお兄ちゃん。たまにケンカすることもあるけれど、私はお兄ちゃんが大好きだった。
    けれど、今朝は違った。お祭りでどこに行くかを相談したら、お兄ちゃんは少し困ったように笑いながら「友達と行かないの?」と聞いてきた。私はそれが裏切られたように感じて、お兄ちゃんを泣きながら責めると、止めるのも聞かず家を飛び出してしまった。めちゃくちゃに走ったからどこをどう来たのかなんて分からない、涙が治まる頃には見たこともない道を歩いていた。


    胸に残った嫌な気持ちを振り払うように、強引に目をこする。今日何度目か分からない作業にため息をつきながらふと顔を上げると、見慣れない家が側に建っていた。少し古い気もするけれど立派なお家。小さい庭は整えられていて色とりどりの花が点々と咲いている。そういえば、この辺りは人気が少ないけれどこの家には誰が住んでいるんだろう。家の様子から小柄なおばあさんか、優しい紳士のようなおじいさんだろうか。好奇心のままに庭を覗いて見ても誰も見当たらない。もう少し近くで家の中を覗こうとした時、少し低い声にぴしゃりと止められた。

    「女性がはしたない真似をしてはいけませんよ」

    驚いて振り返ってみたら、立っていたのは眼鏡をかけたお兄さん。一房のくせっ毛と口元の黒子が印象的で、両手には二つの大きな袋を抱えていた。見られていたことの恥ずかしさと気まずさに何も考えられなくなって魚みたいに口をぱくぱくさせていたら、お兄さんは私の方へと歩み寄ってくる。目の前まで来たとき、怒られると思って固まっていたらお兄さんはおもむろに鍵を取り出して私に差し出した。

    「これで扉を開けてくれませんか。お茶ぐらいお出ししますよ」

    言われるままに鍵を受け取って扉を開ける。颯爽と家の中へと入っていくお兄さんの背中を見ながら、少しの躊躇のあと私も足を踏み入れた。



    家の中は外観と同じく少し古風な造りになっていた。合わないとすればお兄さんの存在ぐらいだろうか。私の予想のおじいさんやおばあさんではなく、この家にはお兄さんが住んでいると言うのだから。まっすぐにキッチンへ向かうお兄さんを見送りながら、私はリビングのソファーに遠慮がちに腰を下ろした。大きな窓から先程の庭がよく見えて開放的に感じる。加えて太陽の日差しが部屋中に入り暖かく、ここでお昼寝ができたらどれほど気持ちいいだろう。数分もしないうちに今度は甘い匂いが漂ってきて、そちらに目を向けるとお兄さんがトレーを手にやってきた。私と向かい合う形で座ると紅茶と綺麗に装飾されたザッハトルテが並べられ、甘い匂いが一層私を魅了した。

    「今朝の試作品ですが、どうぞ」

    勧められたものの、繊細に作られたトルテは食べるのをためらってしまう。おそるおそる一口目を食べてみれば優しい甘さが広がった。今まで食べたどのトルテよりも美味しくて、自然と笑顔になってしまう。さっきの遠慮なんか忘れて食べすすめる私に、お兄さんはくすりと笑ったような気がした。

    「もう少し落ち着いてお食べなさい」
    「だって、これ凄く美味しくて。お兄ちゃんにも食べさせてあげたーーー」

    そこまで言って口を閉じる。今朝の出来事を思い出して私はまた暗い気持ちになった。急に黙り込んでしまった私を見てお兄さんは不思議そうな顔をしたけれど、深くは追求してこない。静かな時間と美味しいお茶のおかげで緊張がほぐれたのか、お兄さんになんだか心の内を吐き出したくなって、気が付けば私はぽつりぽつりと語っていた。兄のこと、友達がいないこと、今朝の出来事。自分の懺悔の気持ちも含めて少しずつ話すその間も、お兄さんは話を止めるでもなく時々私をちらりと見るだけで黙って聞いてくれていた。
    ようやくすべてを話し終えた時、再び沈黙が部屋を包む。お兄さんを盗み見れば、飲み干したコーヒーカップを置くところだった。ほう、と一息ついて暫く一点を見つめている。今度はお兄さんがぽつりと話し始めた。

    「少し、昔話をしましょう」


    ーーー私には随分と前に兄と呼べる人がいました。小言の多い方でしたが、よく、私を助けてくれました。文句を言いながらも世話を焼いてくださる彼に、私は知らず知らず甘えていたのでしょう。あることが切っ掛けで彼と対立したとき、私は初めて独りというものを知りました。とても寂しく、酷く不安だったのを覚えています。そんな私に声をかけてきた方もいました。友人になろう、と。私はそれを素直に受け取ることができませんでした。時代のせいと言えばそれまでですが、信じることが出来なかったのです。上部だけの繋がりを繰り返し、何度も裏切られて私はずっと独りのままでした。


    「…ですが、最近そうではないのかもしれないと。私は私が思っている以上に周りに恵まれいるのだと感じるのです」

    不意に玄関のチャイムが鳴った。驚く私とは反対に、お兄さんは少し眉を顰めると私に断りをいれてから玄関へと向かう。扉が開かれた音の後に聞こえてきたは怒鳴り声で、何か揉めているのかと思ってこっそり覗いてみると、そこにはブロンドの髪に少し小柄な人がすごい剣幕でお兄さんを叱っていた。

    「そんなに怒鳴らなくても聞こえていますよ」
    「緊張感を持てと言っている!いくら子どもとはいえ不用心ではないか!さっきから貴様の家の前をうろうろしていたぞ!」

    「お兄ちゃん!?」

    引っ張り込まれてきたのは間違いなく私のお兄ちゃんで、大声を上げた私と目が合った。捕まれている手を振り払い私の元へ駆け寄ると、息も出来ないほど強く抱きしめながら何度もごめんねを繰り返した。同じように私もごめんねを繰り返してお兄ちゃんを抱きしめ返す。溢れてくる涙で最後は言葉にならなかった。
    お祭りの誘いを断ったのは私にも友達ができるように、自立を促す兄なりの優しさだったらしい。なかなか人に話しかけられない私に代わり、お兄ちゃんは当日私と一緒に遊んでくれそうな子に声をかけていて、私が飛び出した後に迎えに来てくれたそうだ。私のためとはいえ勝手にしたことを謝られたけど、そこまでしてくれるお兄ちゃんの優しさが嬉しくて、私はありがとうの言葉しか言えなかった。

    「今からでも遅くないよ。一緒にお祭りに行こう」
    「本当?」
    「ああ。友達も、きっと待ってくれてるよ」

    そう言って手が差し伸べられる。もう離さないようにと強く握って、私達は玄関へと向かった。途中でお兄さんにトルテと紅茶のお礼を言えば、少しだけ笑顔を見せてくれて思わず心臓が高鳴った。赤い顔を見られたくなくて早々に出ていこうとする私に、お兄さんは屈んで小さく耳打ちをする。その言葉に私も笑顔で返し、お兄ちゃんの手を再び強く握ると賑やかな街へと駆け出した。


















    「一体なんだったのである?」
    「別に何も。それより、随分と早いお越しですね。リヒテンシュタインからは少々遅れると連絡がありましたが?」
    「我輩だけでも先に行くよう言われたのだ!第一、貴様のこの催しに参加するのもリヒテンに言われて仕方なくであって…!」
    「……成程、そういうことですか。…では、彼女やほかの客人が来るまで少しお手伝いいただけますか?」


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works