前日譚 自宅にて陳腐なミステリー小説に頭を捻るも、一向に進まない執筆作業を中止して一服する。俺の手を止まらせる理由は、とある不安の種のせいだった。机上に置いたスマートフォンが着信音を響かせる。あぁ、噂をすれば。
『ヤギ、聞いたか?狂気山脈!』
嬉々として話すのは親友の七浦。少々無茶な登山をするために、付いて行くようになった。こっちの心配を他所に、彼は嬉しそうに毎度登山を楽しんでいるわけだ。
七浦はつい最近発見されたと言う狂気山脈の話題を振ってきた。エベレストを超える新世界最高峰……まさに世界的ニュースだ。知らないわけがない。……それこそが、執筆作業の手を止める不安の種なのだ。
「知ってる。お前、登るなんて言い出すなよ」
2028