変わったもの 変わらないもの いつ来ても変わらない清廉な空気を肌で感じながら、江澄は周囲の景色を見回した。
いつ来ても静かで、動植物の気配しか感じられない場所だ。それこそ、若い時の記憶から一寸も変わっていないように見える。一度焼けてしまったものを建て直したはずだが変化のない並びはとてもその様に見えない。
宗主として江澄は雲深不知処を訪れていた。いつもは苛々しながら用事を終えるのだが、今日は比較的穏やかな心持ちでいる。苛立ちの原因である含光君と顔を合わせていないためだ。忙しいのか不在なのか、どちらかは知らないが好都合である。あの男に関わると不愉快な思いしかしないのだから。
一方で、ひょっとしたら顔を合わせた方が良かったのかもしれないとも思う。気持ちに余裕があったらあったで、要らぬことを考える。それだけここは因縁の場所だ。
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