散々な一日 バタバタと誰かが走る音がする。緊急事態だろうか。寝そべりながら書を眺めていた魏無羨は、あまりの慌ただしさに身を起こしながら気を引き締めた。「廊下は走るべからず」の家規に則って、藍氏の者はよほどのことでも走らない。それがこんなにも音を立てて走っているのだから、きっととんでもないことが起こっているのだろう。こちらに向かってきているであろう弟子の姿を想像しながら、魏無羨は険しい顔つきで扉を引いた。
そこには確かに姑蘇藍氏の校服を纏った人物がいたけれど、今はいるはずのない人物が立っていた。
「藍湛」
仙門百家で行われる夜狩に監督役として参加するため、藍忘機は明日まで不在のはずだ。どうしてと思い、それほどの緊急事態なのかと息を飲む。普段、夫夫で睦み合う時以外は髪一つ乱すことがないのに、今は息が乱れているし抹額も心なしか曲がっている。どれだけの邪祟が現れたらこんなにも取り乱した様相になるのだろう。何を言われても驚かないという覚悟をもって藍忘機からの言葉を待つ。
3565