山猫に懐かれる「やあ、月島伍長。尾形上等兵を見かけなかったかい?」
「花沢少尉殿。」
帽子を目深に被って目元が見えにくいのに、眩しいほどの笑顔の青年に声をかけられ、その伍長…月島基が振り返る。
「申し訳ありません。随分前に別作業で別れまして。奴が何処にいるかは存じません。」
「そうか。呼び止めてしまって悪かったね。」
「いえ。ところで菊田軍曹殿が少尉殿を探しておられましたが。」
「菊田軍曹が?」
菊田と花沢は士官学校の頃の仲だというのは、菊田を知る人間ならば全員推測できた。何しろよい教え手として慕う生徒は数多くいて、花沢勇作の年齢を考えれば学生時代での菊田との繋がりは容易にできるからだ。
それに花沢自身も、菊田を慕う士官学校出身の少尉であることを隠してはいなかった。
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