※いなくなる話
2021.08.10
抗いようもない呼び声に誘われて、昏い闇に飛び込んだ。進むたび、近づくたび、手綱をなくした彼の力が、じくじくと肌を焼く。痛みよりも喜びが大きかった。この身のすべてを、やっと大好きなひとに明け渡せるんだから。
空間が乱れて、一人ではなくなったことを認めた甲洋が、まどろみたがるまぶたを無理に開いた。引き寄せられるままに落ちる僕を、広げた腕に受け止めてくれる。
もう、加減が効かないのだろう。もともと一つだったと信じるように強く、へたをすれば骨から潰されてしまいそうなほどに強く、取り込みたがるような強引さで、大きな手のひらが背中を覆う。広がった彼の髪をおさえながら、僕からもそっと抱き締め返した。
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