※いなくなる話
命を還す時がきた。争いの真っ只中で、そんなことってあるだろうか。僕を呼び戻すミールを助けるように、器の背後から飛び出した兄弟たち──エウロス型と呼ばれる朱色の群れ──が僕と鍔競り合う子を引き受けてくれた。敵を見据えたまま、硬い海の上を戻る。器を島に返さなくちゃ。
争う音。曇天。初めて器に乗せてもらって戦ったあの日のようだ。一つ違うのは、空が赤くて怖いこと。視界を遮るように、重く白い雪が振り続けていること。もう、積もる雪を見ることもない。
撤退を阻む憎しみの末梢を生まれた場所へ還しながら、合間を走る兄弟たちを介して、久し振りに心で彼に呼び掛ける。いつだか、総士とこんな遊びをしたっけな。ピンと伸ばした糸電話。届けられる声が少し違って聞こえるのが不思議だった。
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