過去の悲しみから立ち上がる時、必ずしも自分で前に進む必要はないって話顔を上げると、電車が停まっていた。
ここがどこなのかはわからない。
自分がなぜそこにいるのかもわからない。
でも、不思議なことに狼狽るような気持ちは湧いてこなかった。
ここにいることが正しい、そんな感覚。
硬いベンチから腰を上げると、右足を一歩前へ踏み出す。
続いて左足、また右足、左足、右足。
僕は電車に乗り込んだ。
他に乗客のいない車内はとても静かで、空気が柔らかい。
座席にポスっと腰掛けて、外を眺める。
景色がゆっくりと動き始める。
ガタン、ゴトン、ガタン、音を繰り返して、僕は元いた場所から遠ざかっていく。
あぁ、結局気持ちなんて、自分の気持ちなんて、自分で制御できやしないんだ。
離れ難ければ動けない。蹲って、下を向いて、進めない。
772