牡丹と獅子(狂ひ獅子)
1月の雲深不知処は白銀の世界だった。
風雪舞い、落ち往く花弁
白紙に一滴の朱墨を垂らしたような滲紅に心を惹かれ、魏無羨は静室の円障子からそっと指を伸ばした。
窓の外では大輪の花弁が、雲深不知処を覆う雪に抱かれるように咲き誇っている。
その花の下に小刻みに動く雪像を見つけ、ははっと魏無羨は笑みを零した。
「魏嬰、風邪ひく」
「なんだ、藍湛、戻ったのか」
珍しく夕刻に静室に戻った藍忘機は、薄着の魏無羨に僅かに眉を潜めると、その背を抱くように身を寄せた。
「なあ、見ろよ、あれ。寒牡丹の下に兎がいるぞ」
どこから迷い込んだのか、白い兎はふんふんと鼻を鳴らし、餌を求め、地面に顔をうずめていた。
愛らしい仕草に、横目で覗き込んだ忘機の口端も僅かに緩む。
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