てのひらに愛を 本部からの帰路、隣に歩く神田がスクールバッグを持ち換えた拍子に弓場は気づいた。
「どうした」とかけた声に神田は「え?」と振り返る。
「手袋だよ、どうした」
言われて、ああ、と呟くように答えた神田が浮かべた十八歳の少年相応のはにかんだ笑みに弓場は慈しむように目を細めた。
弓場が知る冬の神田の手を覆っていたレザーの手袋は小学生の時に亡き父へと贈った誕生日プレゼントだったが、タンスの肥やしにしていても仕方がないでしょ、品物はちゃんと使ってあげなきゃという母親の言葉のもと、サイズが合うようになったこともあって大事に使われていたものだった。
「すみません、弓場さん。帯島に貸しちゃって」
「帯島に?」
「ええ。あいつ、朝会った時に手袋を学校に忘れたって言って手、こすってたんですよ。寒そうに真っ赤な指で」
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