胡蝶効果知っていた男が亡くなった。試合中の事故に因る。詳細を語るには一行あれば十分で、「お得意の技を打とうとして吹き飛ばされて頭を打ち、昏睡状態になり、間もなく息を引き取った」という、純然たる事故そのもの。それを聞いておれは「機を逸した」と思ったものだった……交際関係の断裂についての。そいつは龍の尻尾にとうとう指をふれさせ、背に跨って空に昇ったのだ。ただし肉体が少しばかり遅れているにすぎない。だからそんなことに興味はない。一月前のあの日には腹を決め、やはり別れておくべきだったのだと、ただそれだけを思った。
気を逸した。
あの男は不明の言語を理解しただろうか。
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