カチカチという小さな金属音で目を覚ましたナワーブは、愛しのペットが珍しく見えるところに出てきて水を飲んでいるという状況を堪能することもなく、スマホを片手に絶叫した。
「遅刻!!!」
例えば講義が始まる時間に起きただとか、既に終わってただとかなら諦めがつく。しかし、現在時刻はちょうど間に合うか間に合わないかの瀬戸際。床を踏み抜く勢いでバタバタと支度を始めれば、臆病な生き物は弾丸のように木屑の山にダイブして隠れてしまうが、残念ながらナワーブがそれに気づくことは無い。2分で支度を終えたナワーブは、ぷるぷると震える木屑の山に、いつものようにおはようと行ってきますを告げて部屋を飛び出した。ある朝のことである。
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