はねた
DONE高校のころから福田さんの誕生日を素直に祝えない伊達さんの話。ほたつきは付き合っているがふくだては付き合っていません。
イリュミナシオン 天井に朝の光が躍っている。
身じろぎすればシーツがかさりと乾いた音をたてた。
ベッド脇のキャビネットからスマートフォンを拾いあげる。画面を確かめ、七時かとひとりごちた。
目覚めたばかりだというのに体は鈍くきしみをあげている。
十月もなかばを過ぎ、エスぺリオンFCユースはABチームとも連戦に追われていた。そのためミーティングに下準備にと、このところ残業が続いている。
ゆうべも日付が変わるころになんとかベッドにもぐりこんだものの、カーテンは閉じきらずにいたらしい。レースの隙間からのぞく青空を、伊達は横たわったまま眺めた。
窓ガラスを通り抜けて、どこからか子どもの澄んだ声がする。おかあさーん、ごはんまだー。それに応えるようにかちゃかちゃと食器のぶつかりあう音がして、犬の吠え声、小鳥の囀りと、水曜日の朝はひたすら明るく賑やかだった。
7674身じろぎすればシーツがかさりと乾いた音をたてた。
ベッド脇のキャビネットからスマートフォンを拾いあげる。画面を確かめ、七時かとひとりごちた。
目覚めたばかりだというのに体は鈍くきしみをあげている。
十月もなかばを過ぎ、エスぺリオンFCユースはABチームとも連戦に追われていた。そのためミーティングに下準備にと、このところ残業が続いている。
ゆうべも日付が変わるころになんとかベッドにもぐりこんだものの、カーテンは閉じきらずにいたらしい。レースの隙間からのぞく青空を、伊達は横たわったまま眺めた。
窓ガラスを通り抜けて、どこからか子どもの澄んだ声がする。おかあさーん、ごはんまだー。それに応えるようにかちゃかちゃと食器のぶつかりあう音がして、犬の吠え声、小鳥の囀りと、水曜日の朝はひたすら明るく賑やかだった。
はねた
TRAININGお昼ごはんを食べる監督とコーチたちを書きました。ループ&ループ「どうしたんだい、それ」
休憩室のドアを開けた瞬間、目に飛びこんできた光景に月島は驚きの声をあげた。
後輩からのその問いに、福田はぐいと口を引きむすぶことで返す。冷凍庫から氷をとりだしながら、それがなあと弁禅が苦笑まじりに答えた。
「花ちゃんにセクハラして殴られたんじゃ」
「違うわ」
選手用のアイスパックを弁禅から受け取り、福田はそれを右頬にあてる。義妹に張られたという、手形の跡はくっきりとして鮮やかだった。
はあと月島は小首をかしげる。
休憩室は雑然としている。窓際にはローテーブルがあって、革張りのソファが二脚据えられていた。ふてくされた顔で陣取った、福田の真向かいに月島は座る。
「福田さん、犯罪は困るよ。クラブの経歴に傷がつく」
2380休憩室のドアを開けた瞬間、目に飛びこんできた光景に月島は驚きの声をあげた。
後輩からのその問いに、福田はぐいと口を引きむすぶことで返す。冷凍庫から氷をとりだしながら、それがなあと弁禅が苦笑まじりに答えた。
「花ちゃんにセクハラして殴られたんじゃ」
「違うわ」
選手用のアイスパックを弁禅から受け取り、福田はそれを右頬にあてる。義妹に張られたという、手形の跡はくっきりとして鮮やかだった。
はあと月島は小首をかしげる。
休憩室は雑然としている。窓際にはローテーブルがあって、革張りのソファが二脚据えられていた。ふてくされた顔で陣取った、福田の真向かいに月島は座る。
「福田さん、犯罪は困るよ。クラブの経歴に傷がつく」
はねた
TRAINING現役時代のファンサの話を一年生にする首脳陣を書きました。ふくだて。
happy trail あーさりくーん、というきいろい声が練習場に響き渡った。
なんだと見やるそのさき、フェンス越しに大学生らしい少女たちが手をふっている。きゃっきゃと笑いさざめくさまはなかなかに愛らしい。さてではなまえを呼ばれた当人はと見れば苦虫を噛み潰したような顔をしているから、福田はつい苦笑してしまう。青少年だよなあ、と心のうちでつぶやいて、一年生の集団に歩み寄った。
練習を終えたばかりで、子どもたちはまだ汗も拭いていない。上級生たちがぞろぞろと帰っていくのに遠慮しているのか、練習場の片隅でかたまって立ち話をしている。注目の的となっている朝利はむっとした顔を隠そうともせず、そのかたわらで青井が減るもんやなし手ェくらいふってやれやと言い、大友がなにやら呪詛の言葉を吐いている。
3867なんだと見やるそのさき、フェンス越しに大学生らしい少女たちが手をふっている。きゃっきゃと笑いさざめくさまはなかなかに愛らしい。さてではなまえを呼ばれた当人はと見れば苦虫を噛み潰したような顔をしているから、福田はつい苦笑してしまう。青少年だよなあ、と心のうちでつぶやいて、一年生の集団に歩み寄った。
練習を終えたばかりで、子どもたちはまだ汗も拭いていない。上級生たちがぞろぞろと帰っていくのに遠慮しているのか、練習場の片隅でかたまって立ち話をしている。注目の的となっている朝利はむっとした顔を隠そうともせず、そのかたわらで青井が減るもんやなし手ェくらいふってやれやと言い、大友がなにやら呪詛の言葉を吐いている。
はねた
TRAININGaoas首脳陣にふくだてを添えました。首脳陣はかわいい。
そんなことがすてきです。「望って呼ぶやつ増えたよな」
ぽつりという声に、伊達はチェックボードから顔をあげた。
練習場は賑やかに、こどもたちの活気で溢れている。AとBの練習試合、紅白戦の最中だった。とはいえ先日の公式戦のふりかえりとガス抜きも兼ねてのことだったから、なんとはなし気のゆるむところもある。昼も過ぎた頃合い、陽射しもうららかに、ともすれば眠気にさえ誘われる。
福田は練習場の隅のあたり、フェンス前の定位置で腕組みをしている。視線は選手たちに向けられたまま、こちらの目問いに応えるように話を続ける。
「選手やスタッフ、サポーターもさ、結構な確率でみんな、おまえのこと望って下のなまえで呼ぶよな」
「言われてみればそうだな」
2272ぽつりという声に、伊達はチェックボードから顔をあげた。
練習場は賑やかに、こどもたちの活気で溢れている。AとBの練習試合、紅白戦の最中だった。とはいえ先日の公式戦のふりかえりとガス抜きも兼ねてのことだったから、なんとはなし気のゆるむところもある。昼も過ぎた頃合い、陽射しもうららかに、ともすれば眠気にさえ誘われる。
福田は練習場の隅のあたり、フェンス前の定位置で腕組みをしている。視線は選手たちに向けられたまま、こちらの目問いに応えるように話を続ける。
「選手やスタッフ、サポーターもさ、結構な確率でみんな、おまえのこと望って下のなまえで呼ぶよな」
「言われてみればそうだな」
はねた
TRAINING飲み屋でくだを巻くふくださんとそれに付き合うだてさんを書きました。ふくだて。
ハッピーエンド「つーきしまー」
呼ばわるさき、ふわふわとした髪がふりかえる。いちおうは上役を立ててくれるものか、事務仕事をする手がぴたりと止まった。
なんですかーとこちらに合わせるように間伸びした、その声に福田は盛大に顔をしかめてみせた。
「おまえ秋山の誕生日にテディベアやったってほんとか」
指導用ノートを丸め、とんとんと肩を叩くこちらに向かって月島は悪びれることなくにっこりとする。
「僕っていうか二年生みんなですけどねー。秋山くんのお誕生日にあげるもの何がいいかって高杉くんたちが相談し合ってたとこにたまたま通りがかったので、秋山くんドイツの代表GKとおんなじプレースタイルだし、あのGKといえばちいさいころおっきなテディベアと一緒に試合に出てたとか癇癪起こしてゴール放棄して代わりにそのテディベアにゴール守らせてたとか有名だから、あとテディベアかわいいし、あやかっていいかなって。僕は案を出しただけでお金は払ってませんよー、贔屓になっちゃうでしょ」
4019呼ばわるさき、ふわふわとした髪がふりかえる。いちおうは上役を立ててくれるものか、事務仕事をする手がぴたりと止まった。
なんですかーとこちらに合わせるように間伸びした、その声に福田は盛大に顔をしかめてみせた。
「おまえ秋山の誕生日にテディベアやったってほんとか」
指導用ノートを丸め、とんとんと肩を叩くこちらに向かって月島は悪びれることなくにっこりとする。
「僕っていうか二年生みんなですけどねー。秋山くんのお誕生日にあげるもの何がいいかって高杉くんたちが相談し合ってたとこにたまたま通りがかったので、秋山くんドイツの代表GKとおんなじプレースタイルだし、あのGKといえばちいさいころおっきなテディベアと一緒に試合に出てたとか癇癪起こしてゴール放棄して代わりにそのテディベアにゴール守らせてたとか有名だから、あとテディベアかわいいし、あやかっていいかなって。僕は案を出しただけでお金は払ってませんよー、贔屓になっちゃうでしょ」
はねた
TRAININGふくだてが気になっています。スタンドバイミー 兄ィがな、と少女は言った。
ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。
4338ベンチのうえに両膝を抱えて、その目はまっすぐに前を向いている。ベンチの陰になった、地面には藤色のスニーカーがひと組きちんと揃えられていた。大雑把なように見えて、座面を土足で踏みつけにしないところが育ちの良さをあらわしている。
夜だった。
こどもたちの去ったあとのグラウンドはどこかうら寂しい。地面にスパイクの跡がいくつか、夜間照明のしたくっきりと浮かびあがる。整地って結構たいへんなんじゃがなと、そんなことを考えながら弁禅はおうと相槌を打つ。
冬も間近とあってあたりは冷えている。
どこかで虫の鳴き音がした。
ジャージ一枚羽織ったきりの軽装ではさすがに骨身にこたえる。寒いのうとぶるりとおおきく身震いすれば、かたわらで少女がきょとんとした。大仰な身振りをすればこどもはたいてい笑うものなのに、まっことお嬢さん育ちよのと弁禅はこっそり感心する。