ガマンの時間はおしまいです!?正直めちゃくちゃ好みのタイプだったので、冗談半分でアタックした。
まさか受け入れてくれるとは思わずに。
恐らく俺の第一印象は最悪だっただろう。好かれようなんて最初は全く思ってなかったから。
だから、俺は今、何故こんな状況になっているのか全くわかならいのであった。
歩が何故付き合うことを了承してくれたのかは分からないが、先にちょっかいをかけた手前、ちゃんと大事にしないとなんて最近思っていたからなのか。
今日は一人暮らしを始めた歩の家で、何をしてとは決まっていないが部屋でダラダラ過ごす予定だった。時はちょうど昼食を食べ終えてた頃に遡る。
「あ~美味かった。やっぱり歩が作るメシが一番だな」
満たされた腹を撫でながらソファに寝そべる。
するとすぐさま台所の片づけを終えた歩がこちらに近づいてきていた。
「浅月、食べてすぐ横になると牛になるぞ」
「たまにはいいじゃねーか。お前もこっちに来いって」
そう言って手招きしてみるものの、距離が縮まることはない。
二人きりの時に手を握ってみたり、耳元で愛を囁いてみたり。
これまで恋人らしいことをして様子を伺ってみたが、歩は嫌がりはしないが照れたり嬉しそうな反応を見せることは無かった。
何で俺と付き合ってる?
俺の事本当に好きなのか?
そんな言葉決して口には出さないが、思わず頭に思い浮かぶことくらいは許してほしい。
そもそも分かっているのだ。好きになったのは俺で、告白したのも俺。
恋人というポジションに収まってくれているだけで嬉しいのだって本当だ。
そんなことを考えていたからか、僅かな間意識を彼方に向けていた俺は気付かなかった。
「来た、けど」
「うぁっ!?えっ!?」
そこには、仰向けに寝転がる俺の傍に寄り、腹を撫でる俺の手に自分の手を重ねる歩が居た。
「え、何どうした?」
「アンタが呼んだんだろ。文句があるのか」
相変わらず表情は普段と同じだ。歩が何を考えているのかがわからない。
「なんで今日そんな警戒心薄いんだ?」
「恋人相手に警戒しなくてもいいだろう」
「確かにそれは……いやある意味一番警戒しろよ」
そんなことを言いながら、重ねられた手を取って引き寄せる。
当然倒れこんでくる歩を受け止めて抱きしめてみても、大人しくされるがままになっている歩に堪らない気持ちになってくる。
「なー歩、もうちょっと触っていいか?」
「もうちょっとって……そもそも確認を取る必要があるのか?」
「そりゃお前が嫌がったらやらねーよ」
これまで手応えも無いが、そもそもストップをかけられたこともない。
どこまで受け入れてくれるかわからない歩を、どこまで攻めていいのかもわからないのだ。
「俺だって、嫌なことは嫌だと言うぞ」
表情を崩さない歩が、やけに余裕がありそうに見えて。自分ばかりが余裕を失いかけていることに焦った気持ちのまま、体を反転し歩をソファに組み敷いた。
「おい、お前これ以上その顔で俺のこと見てると俺のやりたいこと全部やっちまうぞ」
大切にしないと、とか。怖がらせちゃいけないとか嫌われないようにとか。
つい数秒前までそんなことを考えていたのが嘘かのように、欲望が充満してくる。
「今まで、誰かに俺自身を求められたことなんてなかったから」
そう言って歩は、ソファに寝転んだままの体勢で俺を見上げながら両手を伸ばしてきた。
「俺のこと好きだって、欲しいって思ってくれることが素直に嬉しいから。俺にしてほしいことがあるなら……俺に出来ることなら何でもしてやりたいって、思っちまうんだよ……………」
は?
してほしいこと?なんでも!?
「お、お前………相手が俺でよかったな!?他のヤツにそんなこと言うんじゃねぇぞ!!!」
「まさか。アンタ以外にこんなこと言うはずないだろ」
予想外の言動に思わずソファから飛びのいた。何なんだこいつ。
呆れてこっちを見やるその表情も好きだなんて、この状況では言えるわけもない。
そして冒頭に戻る。
「……歩、お前の気持ちは分かった」
そして今めちゃくちゃ興奮してる。
俺がテンパったせいでアレだけど、今めちゃくちゃいい空気だ。
やりたいこと全部ってわけには流石にいかないが、少しだけなら。
「いいんだな……?少しでも嫌だとか怖いと思ったら言えよ」
「わかってるよ。アンタも往生際が悪いな」
そう言って今度は微笑んでみせる歩に、俺は最大の愛情を込めてキスを——————
ピンポーン
「もしもーし、鳴海さん?いまマンションの下で丁度理緒さんと会って」
「こんにちは弟さん!今お邪魔してもいいですか?海外の知り合いからフルーツをたくさん貰ったんですけど一人じゃ食べきれなくて……」
「こんなこと言ってるんですよ!理緒さんに抜け駆けさせるわけにはいきませんからね!あれ、鳴海さん?居ます?早く開けてくださいよー!」
無言のまま顔を見合わす俺たち。
「……すまん」
「いや……お前のせいじゃないだろ…………」
「ちょっと、出てきてもいいか?」
「ああ…………」
正直追い返してくれないかと期待したが、こんな空気になっちまったらもう仕方ないか。
俺はため息をつきながたソファに居直るしかなかった。
この後、結局4人で夕食を食べることになったり、そのことで俺と歩がケンカしそうになったことはまた別の機会に話そう。