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    mitu26_43

    雑食オタクのワンクッション置きたかったり、ちょっとアレげだったりにょただったりするものを置く場所になっています。全体的にフリーダム。

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    mitu26_43

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    放課後っぽいケイトレ散文です。なにも考えずに書いたのでゆるっとお読みください…

    学園の庭にある林檎の樹の下には色々な噂がある。例えば、夜な夜なNRCに忍び込んだ林檎泥棒の死体が眠っているだとか、樹の天辺に近い林檎を食べれば幸せになれるだとか。いくつかある噂の中に、林檎の樹の下で告白すればその二人は永遠に結ばれるとかいうものもあるらしい。NRCは男子校だが、外部生が来る機会もあるが故に、その話をし始めたのは一体誰なのか分からないもののとにかくそういう話があるのだという。

    「…で、なんでその話を?」
    「いや、お前が好きそうかなって」

    うーん。と唸って目の前でオレンジの髪を揺らすケイトが腕を組み、微妙な顔をしてこちらを見ていた。

    「オレも聞いたことあるけどさ。フツーに過ごしてたら縁の無い話じゃない? バッタリ出会った外部生に一目惚れした〜とかだったら別、かもしれないけど」
    「そうか」

    この話はケイトの面白そうセンサーには引っかからなかったらしい。だが特に気にも留めず聞き流した。今は放課後だ、部活に会議に補習にと、生徒は各々やらなければいけないことやしたいことに奔走している時間だろう。周りには人も居ないし、俺はといえば副寮長としての仕事の予定も無く、サイエンス部は活動日じゃない。右に同じくケイトも軽音部は休みの日なのだそうだ。そんな訳で、この庭にある林檎の樹を見上げているのは俺とケイトしかいないのだった。樹に成るつやつやと輝く林檎を見ながら、俺はケイトに問うた。

    「お前はアップルパイとタルト・タタン、どっちが好きだ?」
    「は」

    ケイトの方を見やれば、甘いものが苦手なことは知っているだろうと言いたいのか間抜けな顔をしながらケイトは丸い目で俺を見ている。パンプキンパイのように甘さ控えめなら食べられるのかもしれないが、やっぱり想像するのは煮詰められた砂糖が染み込んだとても甘い林檎の味なのだろうか。ううんと唸って困ったようにケイトは瞳を伏せている。

    「どちらも好きじゃなかったら、お前は何が好きだ。」

    一番近いものなら手を伸ばしたら届きそうな高さの林檎、それに触れようとした瞬間に、手首を掴まれた。慌てた様子のケイトが俺の手首を掴んだまま、はぁと息を吐いた。手の力は弱まるばかりか強く、強く握られていく。

    「ケイト」
    「これ、学園長が大切に管理してる林檎の樹じゃん」
    「ああ。そうだよな」
    「バレたらヤバいし……それに、林檎泥棒は樹の下に…埋められちゃうんでしょ」

    オレはそんなの、やだよ。絞り出すような声に思わずドキッとしてしまった。それから堪え切れずに笑ってしまうと不機嫌そうなケイトが更に不機嫌そうに眉根を寄せた。

    「はは!っふ、ふ…冗談だよ。というかお前、そんな話信じるのか」
    「だぁあ、もう、なんなのお前……」

    緩まった手首の拘束、離れていきそうなそれにそのままケイトの手を掴む。季節の割に存外手汗がすごかったかもしれない。ぎょっとした顔のケイトが少しだけ後退りしたけれど逃してやらない。どんな菓子よりも甘い気持ちで満たされていく中でケイトが押し黙ったのはきっと、俺のじわりと熱くなった耳が熟れた林檎のように赤いことに気がついてしまったんだろう。俺が林檎泥棒になる前に、お前は俺の心を盗んでいるんだぞって、この手のひらの温度から伝わってしまえばいい。もっとも、伝わっているからこそケイトも林檎のように真っ赤に染まっているのかもしれないのだけれど。
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