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    二人のホワイトデーのお話をかるく書きました。
    もうすこし煮詰めたかったんですが、全然間に合いませんでした。
    はっぴーほわいとでいー!

    3/14少し寒さが残る夜の神室町。待ち合わせ場所である劇場前広場に少し早くついた桐生は、鉄製アーチに寄りかかった。大きなモニターからは恋愛映画の予告が流れ、どこかからチョコレートの甘い匂いが漂ってくる。道行く人々もどこか浮き足立っており、距離の近い男女も目に見えて多い。
    ぼんやり大通りの方を眺めていると、腕を組んだ男女カップルの金髪の男性と1人で歩いていた女性がぶつかる。女性の方はバランスを崩して尻もちをついてしまった。

    「きゃっ」
    「どこみてんだ!気をつけろ」

    男は謝りもせず、よろけた彼女にそう吐き捨てる。足を止めることもなく、そのまま人ごみの中に消えていく。残された女性は怪我はなさそうだが、ぶつかった衝撃で持っていた紙袋から手を離してしまっていたらしく、雨水のたまった小さな窪みの中に着地していた。桐生は近づいてそれを拾い上げ、地面に座り込んでいる彼女に手を差し伸べた。

    「大丈夫か?」
    「すみません、ありがとうございます…」

    遠慮気味に置かれた手を引っ張る。ヒールブーツを鳴らして立ち上がった女性は、こちらを見上げた。煌びやかな身なりで、30代ぐらいだろう。夜職の人間かどうか微妙なラインだが、すらっとした黒髪で顔が整っている。返す前に手元のものに視線を落とすと、チョコレートの入った袋や箱がいくつも入っていた。だが、袋の底からは濁った色をした水滴が滴っており、少し染みになっていそうだ。

    「いまのところ中は無事みたいだが、袋の方は濡れちまってるな」
    「ど、どうしよう…このチョコ、帰って家族で分けようと思ってたのに…」


    このまま放っておいたら、中まで濡れてしまうだろう。それに水たまりには吸い殻が捨ててあったし、衛生的にもよくなさそうだ。しかし彼女の手には小さなブランド物のカバンが1つ握られているだけで、外側を捨てたとしてもとてもこの量のチョコをしまえそうにない。桐生は少し考えて、自分の右手に下げていた袋を持ち上げた。

    「こいつでよけりゃ、使うか?」
    「え、いいんですか?でも…」
    「気にするな。一つなら手で持てるからな」

    リボンがかかった箱を取り出し、そのまま胸ポケットにしまう。彼女が持っている袋からチョコレートらしき箱たちを、綺麗な方へと移し替えていく。
    そういえば、バレンタインの日に伊達さんもこんな量のチョコを職場で貰ってきていた。一緒に食べるのを手伝ったが、多分義理ではないのであろうハート形のチョコも混ざっていた。複雑な気持ちでそれを率先して食べていたっけ。伊達はまったく気が付いていないようだが、彼を慕う人間は多い。もう少し自覚をしてほしい。この女性の家族も同じような気持ちになるかもしれないな。そんなことを思いながら、不要な袋をゴミ箱に捨てて彼女の方へ戻った。

    「次は落とすなよ」
    「ふふ、本当にありがとうございます」

    花のような笑顔で桐生から紙袋を受け取った。小さく手を振って彼女は去っていく。
    その背を見送っていると、その先で立ち止まっていた伊達と目が合った。

    「伊達さん?」
    「桐生…すまねえ、待たせちまったな。…さっきの、知り合いか?」
    「いや、初対面だ」
    「そう、か…随分綺麗な人だな」

    伊達の返事が煮え切らない。会ったら、懐に忍ばせてあるものを真っ先に渡そうと考えていたが、そんなムードではなさそうだ。

    「どうかしたか?」
    「いや、何でもねぇ」

    仕事終わりに電話した時は普通だった筈だが、電話口で余計なことでも言ってしまっただろうか。何が悪いのか、どう返すのが正解か、いまいち分からない。しかしやけに先ほどの女性を気にかけていることが引っかかった。

    「妬いてるのか?」
    「な、なに言ってやがる」

    うっ、と明らかに動揺を口にして、伊達はだまってしまった。軽い冗談のつもりだったが、図星だったようだ。だが、そんな分かりやすい反応をされてもなお信じ難かった。

    「…伊達さんも嫉妬、するんだな」
    「そりゃあな。お前の横に美人がいると、やっぱり美男美女でお似合いだなって改めて思っちまってよ。…んなの当たり前だって、分かっちゃいるんだが、上手くいかねぇもんだな」

    伊達が語った言葉に、きゅっと胸が締め付けられる。彼はいつも、桐生が誰といても嫌な顔ひとつしない。今まで知人を紹介したことも、仲間も交えて話したこともあるが、寧ろ進んで挨拶する方だ。そんな様子が嬉しくもあり誇らしくもあったが、僅かに不満でもあった。自分ばかりが嫉妬して、彼がそういう感情を向けてくれないことが寂しくもあった。今すぐに抱きしめたいぐらいに愛おしい。だがその通りにしたら彼は怒るだろうから、言葉にするだけに留めることにした。

    「可愛いな」
    「はぁ、これだから嫌だったんだ…」

    桐生は口角が上がってしまうのを抑えようと努めたが無駄だったようで、目の前の彼はわざとらしく眉をひそめた。
    しかしたいして寒くもないのに頬は紅く染まっており、ただの照れ隠しだということは明らかだった。少しの間視線を交わして、桐生は胸ポケットに隠していたものを彼に差し出した。

    「そうだ…これ、貰ってくれるか?」

    リボンでラッピングしたチョコレートカラーの箱、中身が何かは今日がなんの日か考えれば明白だ。彼は片手でそれを受け取った。

    「俺も…用意はしてたぜ。あんまり大したモンじゃねえが」

    伊達はコートのポケットから黒い長方形の箱を取り出し、こちらに渡した。受け取ると、それは上半分だけ中身が見えるようになっており、パステルピンクでコーティングされた小さなハート型のチョコが並んでいる。思わずふっと笑みがこぼれる。露骨に顔を逸らした彼が、これを買うのにどれだけ恥ずかしい思いをしたのか容易に想像できたからだ。

    「…他には誰かに渡したか?」
    「いいや。伊達さんだけだ」
    「そうか…ありがとよ」
    「伊達さんは?」
    「俺は付き合いもあるからな。チョコはともかく、本命はお前の分しか用意してねぇぞ」
    「そうか、ありがたく受け取っておくぜ」

    彼から貰えるならばどんなものでもいいが、目に見えて気持ちが篭っていることがわかるのは嬉しいものだった。顔に熱が集まり、ふわふわとした言葉にできないようなささやかな幸福感が押し寄せてくる。本命と言われたそれを先程まで桐生の気持ちをしまっていた胸ポケットへなおす。
    行くぞと桐生が手を差し出すと、伊達は目を細めて満足そうに頷いた。

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