コーヒーを飲もう。何時間経っただろうか、机の上のコーヒーは眠気覚ましに飲み干したままで、また継ぎ足す気力もなく、底は乾き染みついてしまっているだろう。
「ああっ。」
ふいに動かした自分の手が、無意識にペンに触れる。あてもなく掴もうとして、それを見事に取り落とす。
うぅ、だとか力のない声を漏らして椅子からとろけるように体と手を伸ばして、ペンを拾う。背中から小気味いい骨の音が鳴る。
こんな姿勢になったのが間違いだったのだろうか、現に歪に鼓動する心臓の音がどくどくと耳元で温かく聞こえて、目元が呼吸が一段と重くなる。
「あっ、やばい」
椅子から体を起こすと、ずきん、ずきん、と頭の中で鐘が突かれる。脊髄を木槌で叩かれるような、重い痛みが駆け巡る。
「薬、薬」
うわ言のように救いを求めて漁るデスクには、プラスチックの抜け殻しか残っておらず、焦りと諦めをもってデスクを封じる。
どくどく
どくどく
呼吸がつい浅くなり、熱い血液が体を巡るたびに頭の中身が痛むので、それをどうにか落ち着けるように何度か深呼吸をする。
デスクに目を落とす。
どくどく
どくどく
ずきっ。
少し涙目になりながら、薬を飲む為の水だけ手にとって口をつける。暖房でよく暖まった水は乾いた口の中を滑って、痛みを洗い流してはくれないまま胃袋へ落ちる。
飲み干す身体の振動がまた、脊髄を揺らす。
ずき。ずき。
「あああ〜っ、やだ」
「もうやだ」
デフォ子は痛む頭の中で、膿が絡みつき汚れた脊髄を、どうにか涼しく洗い流す夢を見る。ずきずき覚醒したままの脳みそは半分ひっくり返るように感じられ、ふとデスクのコーヒーカップが目に付く。
「……。」
インスタントコーヒーを、もう一杯飲もうと思いカップに指をかけ、立ち上がる。
ずき、ずき。
………そうしてまた日常へ戻っていくのだ。