いや、けっこう賭けだったよ 修羅の仮面に、純真のケーキ、魔王のイクリプスと虹彩のイクリプス。名だたる素材と霊宝をふんだんに使用して香炉を作った。ウァプラがどんな反応をするかはわからなかったが、フォロンを贈ったときも、フラワーリースを贈ったときも、どんな贈り物をしたとしても、それが自然の営みに反しているものでないかの確認だけはとるが、いつだって受け取ってくれる彼を思い出して微笑んだ。軍団長の立場からメギドラル流の報酬として贈り物をするのはもちろんだが、いつも以上に気持ちを込めて作ったつもりだった。
「テメェなんでこんなところにいやがる」
屋敷で出迎えてくれたウァプラはいつも以上に眉間のシワが深くて思わず笑ってしまった。いつか関わったカジノで見た秘石エスメラルダのような美しい緑色の襟が目を引くスーツを着ていたので、いいものが見られたなとさらに心が弾んだ。
「一人じゃねぇだろうな。護衛はどうした」
「ちょうど用事があるからってナベリウスが送ってくれたんだ。ウァプラにこれを渡したらすぐに俺も帰るから」
「アジトで渡せばいいだろうが。なんでわざわざ」
文句に重ねてチッ、と舌打ちも聞こえたが、腕組みをといて受け取る姿勢を見せてくれているのが彼のちょっと可愛いところでもある。
「はい、これどうぞ」
「オイ…………」
かなりこだわって作った金装飾つきの香炉にウァプラが僅かの間だけ黙った。
「転生日おめでとうウァプラ」
転生メギドはつまりメギドラルを追放されたメギドなので、転生日という日に複雑な思いを抱く者もいるだろうことは想像に難くない。でも、この男であれば。ヴァイガルドという世界を愛してくれているウァプラであればきっと受け入れてくれるだろうと思っていた。
「ディオの入れ知恵か」
ウァプラがハァと深い溜息を漏らしたので、いや、俺が無理に聞き出したんだよ、と訂正を入れた。
「じゃあ俺、ナベリウス待たせているから」
そう言って踵を返そうとした俺の腕をウァプラが強く掴んだ。
「ソロモン」
ウァプラが紡ぐ低音と、その音がもつ真摯な響きに心まで掴まれたような気持ちになる。
「ナベリウスには先に帰ってろと俺から言う」
「ウァプラ」
「あと、テメェは今日外泊すると伝えさせればいいだろ」
「あはは。いいのか?ありがとう」
「……クソウゼェ」
テメェ全部わかってやってんだろ、というウァプラの唸るような声に笑って答えた。