楓可不『短夜の真ん中で』 じっとりとまとわりつくような熱気で目が覚めた。目が覚めた、と言うよりも深い眠りのベールを剥がされてうっすらと意識が浮上するような感覚。寝る前に少し温度を下げた冷房はいつの間にか止まっていたようだ。枕元に置いてあるはずのリモコンを取ろうと手を伸ばした楓の胸元で何かがもぞりと動いた。
「んぅ……暑い…………」
「可不可? 起きちゃった?」
「ん……」
身体が汗ばんでいた理由はエアコンが止まっていたからだけではなかった。楓の腕に頭を預け、背中に手を回していた可不可も楓と同じようにじっとりと汗をかいていた。探り当てたリモコンのボタンを押せば、ピッと音を立ててエアコンが動き出す。
「エアコン、止まっちゃってたみたい」
「どうりで……あっつ……」
そう言いながらも可不可は楓の背中に回した手に少し力を込めてもぞもぞと身を寄せる。触れ合った部分から溶け合った互いの体温が、生ぬるくて暑苦しいはずなのに心地良い。楓も枕になっていない方の腕を可不可の背に添えて、ぎゅっと抱きしめる。
「んふふっ……あついね、楓ちゃん」
「うん」
暑くて、熱い。それは身体の内側の熱まで伝わるような距離にいれば当然だが、離れようとは微塵も思わなかった。暗闇に慣れてきた視界で、ふと可不可と目が合った。覚醒し切らない瞳がゆるりと弧を描き、ゆっくりと伏せられ、ほんのわずかに首を伸ばした可不可が顔を傾ける。誘われるままに重ねた唇が熱い。手を添えた頬も熱い。きっと楓の手も。楓の下唇を食むように吸われて、身体の真ん中に灯ってしまった熱を振り払うように唇を離す。不満げな呻き声も聴こえないふりをして、汗ばんだ額に口づけて、丸い頭を抱き込んだ。
「おやすみ、可不可」
「……楓ちゃん」
もぞもぞと腕の中で顔を上げた可不可が目一杯首を伸ばして、楓の頬に唇を寄せる。
「あついね」
「うん」
「楓ちゃん……」
楓の腕から抜け出した可不可の腕が首に回される。重なった唇が小さく音を立てて離れる。
「寝ちゃうの?」
このまま、寝られるの? 尋ねるように、誘うように可不可が首を傾げる。リモコンを手に取り、設定温度を下げて枕元に放り投げた楓は、汗ばんだ肌にまとわりつくTシャツを脱ぎ捨てた。