おはようからおやすみまで「帰ってくれないか」
自宅のドアが開くや否や、ぼくは開口一番にそう言った。ドアノブを掴んだままの来訪者は、無言で言葉の続きを催促する。
「ぼくは仕事が忙しいんだ。これでも売れっ子の作家でね。今日も編集者との打ち合わせがある。締め切りが近いんだよ。だからきみに構っている時間はない」
隈の残った目でパソコンと睨めっこしながらそう告げた。来訪者に構う余裕などなく、タイピングを続ける。編集が来るまで後何時間だったか。彼が訪れる前にこの作品を終わらせなければ。
「――だから、帰ってくれないか」
「花京院」
再三の帰宅を促して、ようやっとここで来訪者が口を開いた。
「お前、ちゃんと寝ているのか」
「寝てるよ。ちゃんと寝て……」
2108