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    木鳥(もくどり)

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    書きかけの承花。折角なので公開しました。

    #承花
    Joka

    おはようからおやすみまで「帰ってくれないか」
     自宅のドアが開くや否や、ぼくは開口一番にそう言った。ドアノブを掴んだままの来訪者は、無言で言葉の続きを催促する。
    「ぼくは仕事が忙しいんだ。これでも売れっ子の作家でね。今日も編集者との打ち合わせがある。締め切りが近いんだよ。だからきみに構っている時間はない」
     隈の残った目でパソコンと睨めっこしながらそう告げた。来訪者に構う余裕などなく、タイピングを続ける。編集が来るまで後何時間だったか。彼が訪れる前にこの作品を終わらせなければ。
    「――だから、帰ってくれないか」
    「花京院」
     再三の帰宅を促して、ようやっとここで来訪者が口を開いた。
    「お前、ちゃんと寝ているのか」
    「寝てるよ。ちゃんと寝て……」
     そこで言葉が途切れる。あれ、おかしいな。ぐんにゃりと視界が歪む。
     頭がぐるぐると回って……。あれ?
     ぐるりぐるりと目が回る。そういえば直近で食べたのはなんだったっけ。確か栄養ドリンクとクッキーだったような……。不味い、まともな食べ物を食していないじゃないか。
     そんな言葉も目眩の内に消え去って。得も言われぬような空腹感と吐き気とともに、真っ白な視界の中に吸い込まれていった。
    「花京院!!」
     みしりとドアノブが破壊される音が遠く聞こえてくる。
    (ああ、承太郎。すまない……大したもてなしもできずに倒れてしまって)
     また心配した承太郎にどやされるな、と思いながら、ぼくは意識を手放したのだった。

     五十日間の壮大な旅の後、ぼくの腹には大きな傷跡が残った。一度は生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨ったが、なんとか持ち直し、人並みの生活を送るようになる――そうなるには相当の努力と治療が必要だったが、ここでは割愛する。
     たまに雨の日になると傷跡がしくしく痛みだすときはあるけれど、それ以外には支障がないぐらい元気になった。SPW財団の医療技術と、親友の甥によるスタンド治療のおかげである。
     やがて高校に復帰したぼくは親友と青春を謳歌し、大学にも通いながら趣味の作家業とを両立しているところだった。
     いや、両立できているかな。最近では授業も休みがちだし、単位もぎりぎりだ。趣味の執筆が日常生活を押してきている。よくない傾向だった。
     それで近頃は寝不足だし、食事もままならなくなっているんだから、これは親友に叱られても仕方ないことだと思う。

     ぼんやりと思考が浮上する。うっすらと瞼を開けて、見えたのは親友の顔だった。
    「すまない……承太郎……」
    「何がすまない、だ」
     間髪入れずに捲し立てられる。
    「お前の体調を最優先にしろ、と再三言っているだろうが。それが倒れてどうするんだ。言い訳があるなら言ってみろ」
    「ないよ……全然ない。ぼくが悪かった」
     全面的に肯定する。仰向けになったまま言ってみれば、漸くそこで安心したのだろう。ふ、と小さな嘆息が返ってきた。
     そろそろとベッドから身を起こしてみる。右手に嵌めた腕時計をちらりと見てみれば、気絶していた時間は数分にも満たなかったようだった。この具合なら、あと少し進めれば編集との約束時間にも間に合うだろう。
     すぐ近くにあったパソコンに向き直って、いざ作業を進めようとすると、ひょいとパソコンが上に持ち上がった。
    「ちょっと。承太郎」
     それがないと仕事ができないんだが。不満の面持ちを崩さずに呼びかければ、返ってきたのはお叱りの一言で。
    「やめておけ。身体に負担がかかる」
    「やめておけ……って、今日中に仕上げなきゃいけない仕事なんだぞ。そうは問屋がおろさないって――」
    「編集にはおれが伝えておいた」
     何を? What
     思わずそんな英語が頭のてっぺんに浮かぶと、数秒かからず答えが返ってきた。
    「締め切りを伸ばすようにと」
    「何をやってくれているんだきみは!?」
     言うが早いか、緑の触手で承太郎をはたく。否、はたこうとする直前に青い巨人に捕まえられてにぎにぎと握られてしまった。
    「いや、本当に何をやっているんだよ!」
    「普通に伸ばしてもらえたぞ。お前は根を詰めすぎじゃないのか」
     承太郎も承太郎だが、編集も編集だ。きっと承太郎のその声色で無理矢理OKを取ったに違いない。これだからいけないんだ。人を騙くらかすような巧みな話術をしてるわけでもないくせに、ボイスだけはイイんだから。
    「財団は何も言ってこないのか」
     ついでとばかりに問われる。体調とか、執筆業に関して口や手を出して来ないのかと。それにぼくはふるふると首を横に振って答えた。
    「財団は無言を貫いてるよ。ノータッチなんだ、ぼくが何しようがね」
     そう言って、ぼくは部屋の上側に備えつけられた監視カメラを見上げて、乾いた笑みを浮かべた。

    「実験を、させてくれないか」
     そう言われたのは数ヶ月前の話。財団のいう実験とは、スタンド使いが普段何をしているかを観察するというもの――要は監視である。
     勿論報酬は惜しみない……というのが良いところだけれど、毎日何とはなしに見られているというのは気分の悪い話だ。そりゃ、安請け合いしたぼくが悪いんだけれど。
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