カルヴァドス浄という男は秘密主義者で、他人に弱みを見せることは少ない。見せたとして自己演出に組み込めるような、些細なものがほとんどだ。ささやかな秘密。ちょっとした失敗談。どこにでもある日常の共有は、人を酔わせ、惹きつける。
そうした浅瀬の関係だけに満足できずに深く踏み込もうとすれば、優しい男の仮面はそのままにのらりくらりと躱される。相手が女性ならば「君のためだ」という囁きも添えて。つくづくラウンジスタッフが天職のような男だ。
だからこそ、思う。
『浄』が男と関係を持っている事、その相手が『宗雲』であること。それは、自ら喉笛を晒すような行為ではないのだろうか。
「……そんなに見つめてくれるなよ」
静かにグラスから口を離し、はにかんだ顔で男が言った。
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