触手の1本まで愛す。「あ。」
手に持っていたゴミ袋が地面に落ちた。
なんてことない仕事終わりの夜に、陰が落ちる。
生臭い匂い、獣のような息遣いと、なんとも形容し難い異様なシルエット。淀んだ空気。
まるでここだけ異空間だというように切り取られたみたいだった。
その異様なモノがこちらの気配に気づき、ぴたりと止まる。気付かれた。命が危機に晒されているはずなのに、なぜか、俺はその存在から目が離せなかった。あろうことか、「どうしたの?」と話しかけようとするほどには。
「 」
何かを言われた気がしたが、分からなかった。動物の鳴き声と同じ、人の言語ではない。
ソレは何か諦めたように身を縮こませ、グジュグジュと奇妙な音を立てながら"何かの姿"に戻っていくようだった。俺の全身を覆っていたデカイ影は、足元に少しかかるくらいにまで小さくなる。
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