笑涙の文「失礼します」
「ホントに失礼だよ…」
開けた記憶のない窓側からやけに風が入ってくると思えば、ここ最近の常連客がニコニコと機嫌良さそうに侵入していた。
対照的に、栗生の表情は曇っている。
(…鍵、かけてたはずだけどなあ)
神出鬼没でどこからでも入ってくる金髪の少年に、栗生は慣れてしまっていた。最初の頃はこの怪しい笑顔が突然現れるたびに驚いていたが、今では多少戸惑いはするものの茶を出すくらいには日常の出来事になっている。
慣れって怖いな…、と思いつつ栗生は今日も茶を用意し始める。笑呉は茶葉多めの苦い味が好みなのも分かってしまっていた。
「今日は何の用?ササキ君と青太郎君は?」
コポコポとお湯を注ぐ音に控えめな声が乗る。実は笑呉用のカップを用意してあるのは、栗生しか知らない秘密だ。
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