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    学生笑呉×養護教諭栗生先生
    大人笑涙

    ちょっとした文

    #創作BL
    Original Bl

    笑涙の文「失礼します」
    「ホントに失礼だよ…」
    開けた記憶のない窓側からやけに風が入ってくると思えば、ここ最近の常連客がニコニコと機嫌良さそうに侵入していた。
    対照的に、栗生の表情は曇っている。

    (…鍵、かけてたはずだけどなあ)

    神出鬼没でどこからでも入ってくる金髪の少年に、栗生は慣れてしまっていた。最初の頃はこの怪しい笑顔が突然現れるたびに驚いていたが、今では多少戸惑いはするものの茶を出すくらいには日常の出来事になっている。
    慣れって怖いな…、と思いつつ栗生は今日も茶を用意し始める。笑呉は茶葉多めの苦い味が好みなのも分かってしまっていた。
    「今日は何の用?ササキ君と青太郎君は?」
    コポコポとお湯を注ぐ音に控えめな声が乗る。実は笑呉用のカップを用意してあるのは、栗生しか知らない秘密だ。
    ———コツコツコツ、とローファーが鳴る。窓辺に座っている彼が壁をかかとで叩いているのだ。彼は表情が動かない代わりに手足がモノを言うのを、栗生はなんとなく理解し始めていた。なんともお行儀が悪いが、特段咎めはしない。別にそこまで気にならないし、たぶん注意しても意味がないからだ。
    「彼らがいなければ来てはダメですか?」
    「え?いやそういうわけじゃないけど…。はい、お茶」
    いつも3人で行動していると聞いていたからなんの他意もなく疑問を投げた栗生であったが、笑呉の声色から若干の不機嫌を感じ取る。しかし顔を見ても彼の表情は相変わらずで、感情を読むことは出来なかった。その矛盾が彼の怪しさを引き立てている。
    茶の香りに誘われるように窓枠から降り、彼のイメージカラーと言える黄色の特攻服がヒラヒラとはためく。
    やんちゃしてるなあ、と栗生は少し和かな気持ちになった。自分も学生時代こういった輩達と絡んだことがあるため、耐性が無いわけじゃなかった。その上で笑呉に対して身構えてしまうというのは、単純に彼自身から滲み出る不気味さから来ているものである。
    ———それでも彼は、まだ高校生の子供。ここ最近笑呉がふとした時に年相応な言動をするのをチラチラ見かけるようになって、ようやく栗生の中の警戒心がほぐれてきた頃だった。少なくとも今、隣の椅子にキチンと座りズズズ…と大人しくお茶を飲む笑呉は微笑ましいものだった。


    最初は、笑呉が一番話が通じる相手だと栗生は思っていた。
    ガタイが良く目つきの悪いいかにも不良という言葉を具現化したようなササキと、マトモに栗生と話をしようとしない青太郎…その二人を見れば、笑顔と丁寧な言葉遣いで喋る笑呉が嫌でも一番マトモに思えてしまうのは、無理もない。
    だが…いつのまにか栗生の中で菊地笑呉という存在が、不可解で怪しいものに変わっていった。彼が一人で保健室に通ってくるようになってから気づいたことだ。
    笑呉は表情を崩さない。何があっても何が起きても、にんまりと孤を描くように貼り付けられた目と口は変わることが無い。そのくせ口調や物腰は丁寧で柔らかであり、…かと思えば意外と手癖や足癖が悪かったり。そして極め付けに、頭部を抉り対角線状の頬に向かってつけられた三本の傷跡である。そんな風貌も相まって、まったく何を考えてるかわからない奇妙な存在になっていた。ちゃんと話せば表情豊かに返事をしてくれるササキがマトモに見えてきたくらいだ。青太郎も甘いものに目がないただのかわいい子供であった。
    …唯一栗生は、笑呉との接し方がよく分からないでいた。

    「…うわっ」
    仕事に意識が向かず考え込んでいると早速、目の前に例の怪しいにんまり顔が迫っていた。
    反射で椅子ごと後ずさり、パーソナルスペースを保つ。追いかけてこないのが救いだった。…追いかけてきたらもはやホラーだろう。
    「な、なに…?なんか顔についてた?」
    「…いえ。何か、考えていらっしゃるようでしたので」
    こういうところだ。笑呉は突然奇妙なことを平気な顔でする。
    相手が何か考えていたとしても、普通こんなに距離を詰めるだろうか。近くで観察するようなことをするだろうか?全く意味が分からない。栗生は戸惑う。
    ———隣り合う椅子に座っていた割には、不自然な距離が二人の間に空いてしまった。
    いま、とても気まずい雰囲気のはずなのだが…当の本人は何もなかったかのように平然と椅子に座り直していた。彼の後ろはちょうど窓があり、日が差して、逆光であまり顔が見えないのが余計に不気味だ。
    「…君、そういうの結構やるの?普段から」
    「なんのことですか?」
    …とぼけてるのか、本当に無自覚なのか。どちらかは分からないが、どちらにしても、自分以外にもやっていたとしたら人間関係に影響が出るかもしれない。
    自分だからいいものの、もし同世代の子が同じことをされたら…と思うと、栗生は居ても立ってもいられなくなった。
    「あの…菊地クン。おれだからいいけど…急に距離詰めるのは、怖いって思う子もいるかもしれないから…やめた方がいいんじゃない?さっき顔近づけてきたのは自覚あるよね?さすがに…」
    「それはそうと、栗生先生」
    …え。おれの話聞いてた?
    思わず口に出そうになったが、これから展開されるであろう彼の話にとりあえずは耳を傾けることにした。

    (…意外と自己中なのかな。)

    笑呉は顎をさすりながら慎重にこちらの様子を伺っているようだった。
    「あなた、なにか心得がおありですか?例えば…」
    「…こころえ?」




    「………」
    「………え、なに…?」
    気づけば、笑呉の拳が栗生の腕で受け止められていた。
    笑呉はしばらくして手をゆっくり引っ込め、ふむ、と何かを確信したように、口元に手を当て頷く。そしてなにかをぶつぶつと呟き始めた。
    「………やはり……」
    「…え?なに?」
    栗生は再び疑問符を浮かべた。急になんの分析を始めたのか、笑呉は相変わらず顔を変えずなにかを呟いている。
    そんな彼につられて、栗生も脳内で、先ほどの一瞬の出来事を反芻した。
    (…さっきの突き…)
    どこかで見たことあったか?
    記憶を辿るが…ボンヤリしている。かなり昔の、それこそ学生時代に見たような気がしたが、あまりハッキリしなかった。だが、どこかで必ず目にしている確信はあった。
    「…いえ。無礼な真似をして申し訳ありません。お茶、とても美味しかったです」
    そっとマグカップを栗生の方へ寄せ、椅子から立ち上がって丁寧にお辞儀をし。彼は来た時と同じように窓から去っていった。
    特攻服の背中側に大きく『殺殺鬼』と書かれた奇抜なデザインに、菊地クンに似合わないなアレ、と栗生は思う。
    ———しかし先ほどの、彼に言わせれば"無礼な真似"を思い出して。

    「…いや。意外と似合ってるかも」
    今頃になって冷や汗をかきながら、栗生はボソリと呟いた。
    今回も彼が何をしたかったのか全く分からない。
    だが綺麗に空になっているカップを見て、栗生の中の警戒心がまた少し解れた気がした。
    (もしかして、お茶飲むために来てるとか…?)
    全く見当違いな予測だと思ったが、しかし彼ならあり得そうだ、と考える。また近いうちに使うであろうそれを洗うために、栗生はのっそりと立ち上がった。











    手を取って、優しく握る。
    それだけで充分だった。この体温を繋ぎ止めるには。
    笑呉は栗生の絶対的な存在になろうとしているわけではなかったが、求められたいと思った。自分の気持ちに対する返事が欲しい、と。対人関係が決して上手くはない彼がそう思うほどには、栗生は笑呉の中で特別な存在だった。
    どこかの誰ぞみたいに狂おしいほど、とまでは言わない。近くで見つめ合ってもおかしくない関係で、触れることも厭わないこと。ただの執着だったその距離感に、よこしまな気持ちが混ざり始めたのはいつだったか。
    栗生の指を撫でる。薬指で引っかかるその銀色に、眉を顰めるようになった。いるはずのない相手に嫉妬している。そう自覚してから異様に気にするようになった。
    それを知ってか知らずか、栗生が笑呉の顔を覗き込む。コンタクトに変えたことで、キスをするときの隔たりが一枚減った。眼鏡が邪魔だったわけではないが、もどかしかった。笑呉が触れたいときに触れられないときがあったからだ。
    ———ふたりの視線がかち合うことは稀だ。…"最中"を除いては。
    笑呉の表情や心の内が全くわからないと恐怖していたのも懐かしい。ダミーリングを撫でる仕草が何を思ってのことか、栗生は分かった上で笑呉の顔を覗いている。どんな顔をしてるのかな、と ようやく彼の表情に興味を持つまで余裕ができた。

    「もうダミーリングと言わなくていいんじゃないですか」
    「だって結婚してないもの」
    「でも、私がいるでしょう」
    「あくまでさ、"見た目"の話だよ。人はほぼ見かけで判断するから、それがめんどくさいだけ」
    「…まあ、それには同意しますが」

    結婚だとか、家族だとか、未来だとか、世の中の普通を掲げて声が大きい人が大半だ。それによって窮屈で面倒な思いをしてきたのはお互い様。
    だが、一度でも心の底で溶け合ったらそんなものはもうどうでもよくなった。分かり合える人同士だけで分かり合えばいいのだと。笑呉が触れようとして、栗生がそれに応えた。それで良かったのだ。

    「今日は終日雨だそうです。嫌ですねぇ」
    「痛い?傷」
    「ええ、かなり。こうして手を握ってもらわないと、おかしくなりそうです」
    「あ〜…じゃあ、今日はもうだめだね」
    「…はい。だめですね」
    「だめだめ。おれもだめになりそう」
    「…それはどういう」
    「ばか。分かってよ」

    この関係になってから、何度栗生に「ばか」と言われたか。人生でそうそう言われたことのない罵倒も、栗生にならむしろ心地良いものだった。
    そして、笑呉は栗生のことが分からないと思う機会が増えた。今だって、なぜ私がだめだと貴方もだめなのか。おや、どうして目を背けるんですか?涙さん、と。栗生と考えを共有したいと思う気持ちが強くなっていた。

    「…よく考えて。特別な人とずっと手握ってるんだよ。きみだったらどう?」
    「……あなたが握ってきたら?」
    「うん」
    「……襲ってしまいますね」
    「でしょお?…って言うのも恥ずかしいけど、うん、だから、そーいうこと。分かった…?」

    ———ええ、分かりました。
    そう言うはずだったが、あまりに傷が痛むので歯を食い縛るに留まった。痛むのは雨だけのせいじゃない。
    栗生がギョッとして慌てて手を離そうとするが、笑呉が離さなかった。ポタタ、と鮮血が二人の手に落ちる。

    「いやいや、血出てるから!薬…」
    「大丈夫です、手当ては要りません。薬は今いただきます」
    「、はあ…?薬はあっちに、」
    「涙さん。一緒にだめになりましょう」
    「……いやまって。どこでスイッチ入ったの?どこで??」

    少し乱暴につけた唇は、血の味がした。
    たしかに優しく手を握るので充分だが、たまには濃い絡みもいいアクセントだ。こんなに血まみれになりながらする行為も珍しいものだろう。だが血に濡れれば濡れるほど、笑呉の心の内がとてつもないことになっている証だった。血の匂いと笑呉の猛攻にむせ返りそうになりながら、雨が激しく窓を叩くのを聞いて、
    (…ああ、これなら、どれだけ声を出しても)

    栗生も少しずつ、だめになっていった。

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