それはキッチンで洗い物をしていた時の事。
2階の方から凄い音がした。
誰か何か落としたか倒しでもしたのかな、なんて呑気に考えていたらリビングの扉が開いた。
誰だろと思い振り返る。
「大瀬さん?」
「っ、いおくんっ!」
かなり慌てた様子で入ってきた大瀬さんはきょろきょろと辺りを見回している。
だけど足音が聞こえて来ると小さく悲鳴あげキッチン横の物置に隠れるように入った。
「ふみやさんには自分はここに来てないと伝えてください!」
「え?」
「お願…あのっ、命令だよっ!」
「承知しました〜!」
おやおやおや〜?
あの大瀬さんが僕に命令なんて珍しい事もあるもんだなー。
うんうん、やっと大瀬さんも僕の使い道を分かってきたんだね!
これは奴隷契約結んでもらえる日も近いかも、なーんて。
それから少しして今度はふみやさんが入って来た。
「依央利、大瀬来なかった?」
「こっちには来てないですよ」
喧嘩でもしたのかなと予想した。
でもふみやさんの機嫌は悪くない。
それなら何故大瀬さんは逃げる必要があったのか。
「…依央利、命令。大瀬どこ?」
「はいはーい!ここでーすっ!」
ふみやさんからの命令、その言葉に体が勝手に動いて物置の扉を開けていた。
「!?いおくんの裏切り者〜っ!!」
「やだなぁ、僕と奴隷契約を結んでいない大瀬さんが悪いんだよ?ねぇ、今後の為にもこの契約書に捺印してよ!」
「しないっ!いおくんのバカっ!!」
捺印を迫る僕を押し退けた大瀬さんは物置から飛び出したことろでふみやさんにあっさり捕まった。
暴れて逃げようとしてるけど、手首を掴まれ壁際に追い詰められていく。
「なんで逃げんの?」
「っ……だっ…て、ふみやさんが……キス、してきたから…」
「いつもしてるのにダメなの?なんで?」
「…理解さんの前…で、する…から…だから…」
ビックリして逃げ出した、と。
声はだんだん小さく、耳まで顔を赤くして目に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうになってる。
キスはふしだら認識の理解くんの目の前でそんな事されたら、ね。
大瀬さんは理解くんをかなり慕ってるし。
免疫ない理解くんがどんな顔をしてその光景を見ていたのかが目に浮かぶ。
ということは、さっきの凄い音は理解くんがぶっ倒れた音?
「大瀬、俺は今めちゃめちゃキスがしたい」
「ひぃぃっ!?」
「理解の前じゃなきゃいいんだろ?」
繋いだ手の指を絡めてじっと大瀬さんを見つめるふみやさん。
あー、物凄く悪い顔してるー。
助けを求めるように大瀬さんがこちらを見てくるけど…残念ながら、こうなったふみやさんは絶対に折れない、止められない。
「…ぁ…ぅー……ん…」
観念したのか大瀬さんはギュッと目を閉じる。
軽く触れるだけのキスは角度を変え、何度も、次第に深く。
ふと伏せられていた瞳が一度開き、ふみやさんと目が合った。
洗い物は後回しにして、出来た奴隷は空気を読んで2階で倒れているであろう理解くんを回収に向かったのだった。