「ああ、もうこんな時間か…」
明日の朝食の下準備を終えたいおくんは大きく伸びをした。
「大瀬さん、お風呂ってまだ温かい?」
「あ、うん…出る時すごく熱くしておいたから」
「そっか、じゃあ行ってくるね。大瀬さんは先に寝てて?」
本日最後にお風呂にはいる権利を勝ち取ったいおくんはご機嫌でお風呂に向かった。
本当は起きて待ってたいところだけど…そんな事したら逆に気を遣わせちゃうかな?
お風呂の掃除もしたいだろうし。
「いおくん、おやすみ」
小さく呟いてリビングを後にした。
「ん…」
妙に落ち着かない気がして二時間くらいで目を覚ました。
時間を見ると、当たり前ながらまだ真夜中。
何か飲もうかとキッチンに向かう途中でふといおくんの部屋に視線を移す。
「…あれ?」
もうとっくに寝ていると思っていたいおくんの部屋からは明かりが漏れていた。
…まだ何かやってるのかな?
部屋をそっと覗き見る。
いおくんはドアに背中を向けて繕い物をしていた。
「頑張ってるんだ…」
自分は誰かの為に何かなんてできない人間だから、いくら好きでやってるとはいえいおくんのそういう所は凄いと思った。
…時々やり過ぎで怖い時もあるけど。
気付かれないようにそっとドアを閉めると、その足でキッチンに向かった。
やかんを火にかけて沸騰したらココアを淹れ、再びいおくんの部屋へ。
軽くノックをしてドアを開けたらいおくんが驚いたように後ろを振り返った。
「大瀬さん?まだ起きてたの?」
「ううん、寝てたんだけど…目が覚めちゃって」
いおくんの横に並んで邪魔にならない位置にお盆を置く。
「あの、これ差し入れ」
「えっ!?言ってくれたら僕がやったのに!負荷をくれ負荷をっ!!」
「むっ…こういう時くらい素直に受け取ってよ。遅くまでお疲れ様、もう終わりそう?」
「んー…あと少しだけやりたいかな。ココアありがとう。でも次からは僕がやるからちゃんと言ってね?」
「やだ」
「大瀬さんってホント頑固だよねー」
「いおくん程じゃないもん」
なんてやりとりの後、いおくんはにっこり笑いながらカップに口をつけてる。
「…あの、いおくん…終わるまでここにいてもいい?」
「へ?」
突然の言葉にいおくんは不思議そうな視線を向ける。
「邪魔はしないから…ダメ?」
「それは構わないけど、もう遅いし早く寝た方がよくない?」
「ううん、なんだか落ち着かなくて。ここにいたい」
目が覚めた時、なんだかすごく寂しさを感じた。
冬でもないのに寒くって、いてもたってもいられなくなって。
いおくんがまだ起きてるって思ったら、心配と同時にすごく嬉しいって思えた。
うつむく僕をいおくんは強い力で抱き寄せた。
「いおくん…?」
「今日は一緒に寝てあげれなかったから寂しくなっちゃった?」
顔は上げないまま小さく頷いた。
「寂しい思いさせて、ごめんね?」
「ううん。いおくん忙しいし、それより自分の方がすごく我儘で…」
「そんな事ないよ、大瀬さんに愛されてるって実感出来たしね」
途端に真っ赤になった僕を見ていおくんは楽しそうに笑ってる。
恥ずかしいけど、嬉しそうにしているいおくんを見てるとこっちまで笑みがこぼれてくる。
「さてと、さっさと終わらせないと…あ、大瀬さん」
「なに…?んっ…」
一気にココアを飲み干したいおくんからカップを受け取ろうと思ったら、チュッと唇に柔らかい感触と甘いココアの味。
「…ごちそうさま。凄く美味しかったよ、ありがとう」
「うん……ぅえ?」
何があったか、やっと理解したら一気に頬が熱くなった。
恥ずかしさを隠すように少しだけ冷めたココアを一気に喉に流し込んだけど。
さっきのキスを思い出して余計に頬が熱くなった。